みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『じんかん』 今村 翔吾

 

じんかん

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おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き尽くす。
民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした」青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?
時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かしたときに直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。


【感想】

史実によると松永久秀とは、天下の三悪事を行い、民に対しても恐ろしい事を...悪名高き武将でもあり、信長に何度も謀反をしても許されるほど利用価値の高い実力者でもあり、高名な茶人でもある。最期は信長が欲しがる名器の茶釜を壊して(爆薬詰めて破壊?)自害...。破茶滅茶な人物像が浮かぶ。

本作の松永久秀は少年時代に父母を亡くし、弟・甚助を守るために過酷な状況にも耐える優しい兄。同じ境遇の孤児・多聞丸や日夏らと生き、友情を深める。後に茶人として師事された新五郎(武野紹鴎)、三好元長と出会い、知識と教養を身に着け、兵法を学び、元長が理想とする「民が政を執り、武士のいない平和な世界」を志し、九兵衛は松永久秀と甚助は長頼と改名し、三好家に忠義を尽くしていくのです。知略に富み、人望が厚い優れた武将となった久秀がなぜ「稀代の悪人」と呼ばれていたのか?と、、人間味溢れる魅力的な武将として描かれ、史実とは全くかけ離れた好人物。印象がガラッと変わります。

人間(じんかん)とは...人と人が織りなす間。つまりこの世を示す。「人は本質的に変革を嫌う。理想を追い求めようとする者など、人間には一厘しかおらぬ。残りの九割九分九厘は、ただ変革を恐れて大きな流れに身をゆだねるだけ。全ての民にとって己を善と思い、悪を叩くことは最大の快楽。」

民のために戦う元長は、一向一揆で民たちにより滅んでしまう。民の怖さは戦国時代も現代も同じで、人々は正義を武器に自分に不利益な悪を排除する。松永久秀は世間から悪の印象を植え付けられても否定することもなく、自らが正しいと思う道を貫く心強さと意思の高さのある人物として描かれています。印象ひとつで世間の目が変わり、誹謗中傷で命を奪ってしまう罪深さや人間の善悪の脆弱さが現代に通じる。史実では残酷な悪行を繰り広げる歴史上人物も見方を変えると善の印象に植え付けられていく。。印象操作が戦略として使用されるのって、恐ろしい。善とは?悪とは?どの時代も人と人が織りなす世界です。面白かったです。分厚さに怯んだけど、一気読みでした。