みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『鹿の王 水底の橋』 上橋 菜穂子

 

鹿の王 水底の橋

鹿の王 水底の橋

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

黒狼熱大流行の危機が去り、東乎瑠帝国では、次期皇帝争いが勃発。様々な思惑が密かに蠢きはじめているとは知らずオタワルの天才医術師ホッサルは、祭司医・真那の招きに応じて、恋人ミラルとともに清心教医術の発祥の地・安房那領へと向かう。ホッサルはそこで、清心教医術に秘められた驚くべき歴史を知るが、思いがけぬ成り行きで、次期皇帝争いに巻き込まれていき!?ふたつの医術の対立を軸に、人の命と医療の在り方を描いた傑作エンタテインメント!

 

【感想】

『鹿の王』の続編。。というよりスピンオフに近い。
天才医師ホッサル、従者のマコウカン、恋人のミラルのその後。。ホッサルたちが清心教医術という異質な医療と出会い、命とは?病とは?人の幸せとは?壁にぶつかりながら、次期皇帝争いという政治に巻き込まれていく物語。

 

恋人のミラルの力強さにはハッとさせられる。。恋より好奇心、探究心に走るミラルに心持っていかれてしまった。。(ホッサルの寂しさはちと笑える)

 

病の先の人の気持ちを見極めるミラルの行動、心根に胸打たれた。。このミラルの言葉に尽きる。。


「私たちは病に、身体に注目し過ぎて、全体を見ていかなった...。長く生きれば生きるほど、つらさも増えていく病はたくさんある...。でも苦しみが短くて済むように、早く死ねばいい、というものではない。病と医術と、生と死と、人の幸せの関係は、きっと、部分を見極めただけでは見えてこない。ゆらゆらと形なく揺らめきつづける何かであるような気がしてならないの」

 

4年前に『鹿の王』を読み、命を繋ぐ医療の壮大な世界にものすごく感動した。。『水底の橋』は感動が押し寄せるほどではないけど、素直に楽しめた。あとがきに上橋さんが、なぜホッサルとミラルの物語を書いたか理由が書かれてました。。ミラルに重ねた上橋さんの思いに納得。。できたら、ヴァンとユナのその後も描いてほしいなぁ。。

『すみれ屋敷の罪人』 降田 天

 

すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

戦前の名家・旧紫峰邸の敷地内から発見された白骨死体。かつての女中や使用人たちが語る、屋敷の主人と三姉妹たちの華やかな生活と、忍び寄る軍靴の響き、突然起きた不穏な事件。二転三転する証言と嘘、やがて戦時下に埋もれた真実が明らかになっていく―。注目の女性コンビ作家が「回想の殺人」を描く、傑作ミステリー。 

【感想】

第一部の「証言」では証言者が語る紫峰家へのそれぞれの視点が面白かった。煌びやかで優雅な紫峰家への憧れや嫉妬から記憶の曖昧さと都合の良さを見せる女中。。紫峰家への忠誠心と思いが強く、感傷的で、何かを隠してる使用人。。子供の素直な直感で洋館の大人たちの不可思議な行動に違和感を持つ料理人の娘など。。最後の家具職人はある人物に焦点を当てて語るが、人物の感性に一番興味をそそられる。。それぞれの回想シーンで色鮮やかに浮かび上がる屋敷の暮らしと紫峰家の美しい三姉妹の個性、確執、秘密...修羅場化していく。。そして、顔に傷がある女中のヒナの存在。。彼女がこの謎にどう絡んでいくのか?

第二部の「告白」いきなり驚きの事実が明かされ、引き込まれた。。その後の真相は悲しき破滅への道...切なかった。。

 

降田天さんって女性コンビ作家のようです。岡嶋二人みたい。。ちょっと注目してみよう。。

『その白さえ嘘だとしても』 河野 裕

 

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

クリスマスを目前に控えた階段島を事件が襲う。インターネット通販が使えない―。物資を外部に依存する島のライフラインは、ある日突然、遮断された。犯人とされるハッカーを追う真辺由宇。後輩女子のためにヴァイオリンの弦を探す佐々岡。島の七不思議に巻き込まれる水谷。そしてイヴ、各々の物語が交差するとき、七草は階段島最大の謎と対峙する。心を穿つ青春ミステリ、第2弾。

【感想】

「階段島シリーズ」第2弾。

捨てられた人たちの島・階段島。島を支配する魔女は姿を見せず未だ謎。。ここで暮らす人々はみな欠点を抱えてる。現実の世界の自分から捨てられた者たちが集まる島。決して捨てられない欠点を抱えながら成長を奪われた人々。。前作(『いなくなれ、群青』)から少し時が過ぎた今作はクリスマスイブにまつわる七不思議の謎解きミステリー。ネガティブ思考の主人公・七草、しっかり者の委員長・水谷、ヒーローになりたいゲーマー・佐々岡、ミステリアスな郵便局員・時任の視点から物語が語られる。水谷と佐々岡の過去の自分が明らかにされ、本音や迷いに悩み、自分や他人に苛立つ。。混じり気のない優等生やヒーローになりたい気持ちが10代らしい。。「純白を目指す混色。どこまでも貪欲に白を加えれば、いつかは純白になれるのではないか。」現実は傷つきながら、成長していくはずなんだけど。。この島ではそれができないの?
前作で苦手だった真辺がちょっとずつ変化してる。。苦手意識薄まる。。成長は奪われても人との関わりで変化はできるのね。。変化は成長?謎多し。

意外な人が魔女?と終盤で明らかに。。ほんとかな?。。まだまだ謎多き島の人々。。次も気になる。。

『犬も食わない』 尾崎 世界観 千早 茜

 

犬も食わない

犬も食わない

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

尾崎世界観が描く「だめな男」。千早茜が描く「めんどくさい女」。
同棲カップルそれぞれの視点、男女の本音が詰まった“究極の共作恋愛小説"が誕生。

「結婚とか別れ話とか、面倒な事は見て見ぬふりでやり過ごしたい」「ちゃんと言ってよ。言葉が足りないから、あたしが言い過ぎる」――脱ぎっ放しの靴下、畳まれた洗濯物、冷えきった足、ベッドの隣の確かな体温。同棲中の恋人同士の心の探り合いを、クリープハイプ尾崎世界観千早茜が男女それぞれの視点で描く、豪華共作恋愛小説。

 

【感想】

だめな男・桜沢大輔。めんどくさい女・二条福。

福がだらしない大輔にイライラしながら世話を焼いてる姿...ちと笑えない。。自分と重ね反省しちゃう。。大輔の言葉足らず。。福の言葉の浪費。。男女が言葉でうまく伝え、理解することって、、とっても難しい。。不可能に近いと思う。。
2人が見に行ったカメラマンとミニマリストトークショー。。カメラマン「(写真というのは)切り取って、捨てていく。産み出すのではなく捨てるってこと」。。ミニマリスト「自分という存在を通すだけで、そこから消えたとしても、そこには残っていく。ふっ、だから持たない。通過させていきましょう。ふっ」←ミニマリストが話の合間に「ふっ」って言う口癖。。話の一番最後が「ふっ」で終わるとか。。一番イライラして面白すぎるキャラだったわ。。尾崎さんのこういう細かいところが面白い笑。


イライラして、やり場のない怒りをぶつけ合いながら、なぜか離れられない存在。。簡単に捨てられないものって、、ありますよね。。大輔、不器用だけど、優しいし可愛い一面もあるなぁって思うのが、ダメなのかなぁ。。笑

『あとは切手を、一枚貼るだけ』 小川 洋子 堀江 敏幸

 

あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)

あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)

 

おすすめ ★★★★★(実は4.5)

【内容紹介】

かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話…そして二人を隔てた、取りかえしのつかない出来事。14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。届くはずのない光を綴る、奇跡のような物語。

【感想】

かつて愛し合った男女の往復書簡。。まぶたを閉じて生きると決めた「私」と失明をした「ぼく」。。

「14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。。」という帯を読み、哀しい秘密とは?2人のあいだで起きた取り返しのつかない出来事とは?という謎に気づきたいという気持ちで2人の手紙を読み続けているうちに、、現実的な日常さえも幻想的な美しい世界に浸ってしまい、、まるで詩のような文章に急き立てられていた気持ちが収まり、、ゆっくりと焦らずに静謐な世界にだただ浸っていくばかり。。

「ぼく」が打つタイプライターの音。それを聴きながら編み物をする「私」。。「アンネの日記」や人工衛星で打ち上げられたライカ犬やパブロフの犬などの動物実験、まどみちおの詩、ユダヤの民の歌などの様々な知識と2人の思い出が織り交ぜ、、とても深く静かなやりとりが湖上の舟のようにふわふわと浮かび、オールを見事に漕ぐ「ぼく」の安心感に包まれていく幸せ。。だけど、2人は決して同じ舟には乗れない。

 

「目でなら さわっても いい?」
まぶたを閉じて、裏側で優しく撫でる。。まぶたはそれを許される場所。。胸がキュッとなる。。

 

「私」の時折見せる小悪魔的な気の強さと儚さ、閉じ込められた想い。。「ぼく」の柔らかい優しさ。。愛し合っていた二人の情景がひしひし伝わる。。二人の間に宿った小さな命への罪を背負うかのように、目を閉じた「私」はまぶたの裏側で思いのゆくまま生きていくのだろう。。

読み終わってから、もう一度、気になる箇所を読み返す。。また違う景色が見える。。今、慌ただしい日々の隙間に静かな世界とタイプライターの音を楽しみたい。。心地よすぎて、、寝てしまうこともしばしばだけど、、美しい結晶を眺めてるようでした。。

 

余談ですが、、わたしは中学生の時、タイプライター部に所属してました(めちゃマイナー笑)。。地味だけど、文字を打つ力強い音。。「私」が様々な音を聴きながら、、「限りのあるキーの数で無限の森へ旅立ってゆく」「打った人の証拠となる足跡を残さないズルさ」(鉛筆との比較)など表現していました。。タイプライターの思い出を読みながら、小川洋子さんの表現力、想像力の素晴らしさを改めて感じました。。

『妻が椎茸だったころ』中島京子

 

妻が椎茸だったころ (講談社文庫)

妻が椎茸だったころ (講談社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

亡き妻のレシピ帖に「私は椎茸だった」という謎のメモを見つけた泰平は、料理教室へ。不在という存在をユーモラスに綴る表題作のほか、叔母の家に突如あらわれ、家族のように振る舞う男が語る「ハクビシンを飼う」など。日常の片隅に起こる「ちょっと怖くて愛おしい」五つの「偏愛」短編集。

 

【感想】
独特で不思議な五つの偏愛短編集。

妻が椎茸だったころ...?と興味を持ち、手に取った本。

 

「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」

オレゴンの田舎町。。嵐で立ち往生していた日本人女性が知り合った老婦人の家で一晩お世話になる。。彼女は5人の夫とのゆるされざる愛を語る...。

(衝撃度は一番。ラストが怖いよ。英語力は低い方が幸せ?笑)

 

ラフレシアナ」

知り合いから二週間、食虫植物のお世話を頼まれた女性。。帰宅後の知り合いに異変が...。

(食虫植物の育て方を調べてみた。。見た目が奇抜)

 

「妻が椎茸だったころ」

突然先立たれた妻のレシピ帖。そこには料理のレシピと日記が記されていた。「私は椎茸だった」というメモを見つけ、妻が通う料理教室へ...。

(妻の意外な一面を知る夫の変わりゆく姿が、、可愛らしい。干し椎茸に奮闘しながら、妻の秘密に近づきたい夫がコミカルだけど、、しみじみしちゃう)


「蔵篠猿宿パラサイト」

女2人旅。旅行先で石に取り憑かれた男と出会う...。

(男に魅了されていく女性とそれをドン引きしながら付き合う女性。。笑える)


ハクビシンを飼う」

人嫌いだった亡き叔母の家に、家族のような付き合いをしていたと言う男性が現れる。。知られざる叔母の話を聞くうちに...。

(白昼夢のような不思議なお話。。過疎の村では起こりそう。。狐や狸...ハクビシンに騙された感じ)


人の奇妙な執着心に知らず知らずに自分も染まっていく感覚...ゾクッと感じられ、じっとりした梅雨時に、ちょうど良い面白さでした。。

 

 

 

 

『裁く眼』 我孫子 武丸

 

裁く眼 (文春文庫)

裁く眼 (文春文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

漫画家になりそこね、路上で似顔絵を描いて生計をたてていた鉄雄。ある日テレビ局からの急な依頼を受け、連続殺人事件裁判の「法廷画」を描くことに。注文通り仕上げた絵が無事に放送された直後、何者かに襲われて怪我を負う。鉄雄の絵には一体なにが描かれていたのだろうか?予測不能、驚愕の法廷サスペンス。

 

【感想】

裁判を忠実に描く法廷画家にスポットを当てた物語。。あくまでも裁判のやりとりや被告人の印象などは絵の素材であり、、裁判官、検察、弁護士、被告人などの表情や緊迫した雰囲気を描き、テレビ局に提出するまでがお仕事。。実際の時間は20分程度と短く、スピードと集中力が必要。。法廷画家視点の裁判の見所や初めての法廷画の仕事を請け負った鉄雄が巻き込まれる事件が絡みあい、なかなか面白かった。。

我孫子武丸さんはわたしの中では『かまいたちの夜』というゲームのシナリオライターサウンドノベルでは、大好きな作品でした。。小説を読み進め、分岐選択により恐ろしい結末やら幸せな結末やらと、、多数のエンディングにたどり着く。。一つの物語の中で多数のシナリオを書く才能が素晴らしい。。とても印象深いゲームだったので、、本を読みながら、キャラの動き、背景、効果音、シーン遷移、音楽が頭に浮かび、サウンドノベルゲーム読みに。。それはそれで、楽しかったかな。。

 

我孫子さんの小説は初めて読んだと思ったら、、以前『殺戮にいたる病』を読んでた。。あれほどの衝撃は本作ではないけど、楽しめたから、我孫子作品はわたしには合ってるみたい。

法廷画も興味深かったのと同時に裁判員制度にも興味が。。面白い作品があったら、読んでみたいです。。