みみの無趣味な故に・・・

読書、時々映画、絵画鑑賞の感想を書いてます。

『約束された移動』 小川 洋子

 

約束された移動

約束された移動

  • 作者:小川洋子
  • 発売日: 2019/11/12
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

こうして書棚の秘密は私とB、
二人だけのものになった――

ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。 Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。
ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く…… 「ダイアナとバーバラ」。
今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕…… 「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。

【感想】

移動する物語...とても興味がそそるテーマ。

印象深かったのは...

かつて世界を熱狂させ、栄光から転落へ堕ちていったハリウッド俳優Bが来日すると泊まるホテルのロイヤルスイート。千冊収められている書棚から決まって一冊が抜き取られる。客室清掃係はBの秘密の行動に気づき、デビュー作に想いを寄せる。冒頭から十八分四十秒後は彼女が最も愛しているシーン。行き場を失い延々と川沿いの道を歩くB。幼い頃から何度も祖母から聞いた象の移動の話を呟きながら象が黙々と歩いた道を歩き続ける...。抜き取られた本を読み、Bの隠された心の深い部分を読み取ろうとする客室係の物語(表題作「約束された移動」)

愛する移動シーンとBの心の淵に共鳴し、客室係としてのみ託された秘密を守り続ける。。世界の片隅で誰もが知り得ないスターの秘密を支えに日々の暮らしを淡々と生きる。。狂気との境目を感じるが..人間は孤独では生きられない。心に誰かとの繋がりを大切にしながら、生きていくのかもしれない。

 

過去にエスカレーターで怪我なく移動させる仕事や市民病院の案内係で訪問者の不安を取り除き、人に安心感を与える存在だったバーバラ。現在はダイアナ妃のどんな服でも手作りし、身に纏い、街を歩くバーバラの奇妙な行動に理解し、時にはお手伝いをする孫娘(「ダイアナとバーバラ」)

この設定が妙に面白かった。人を安心させる才能のある人が、今は奇妙なドレスに身を纏い、一瞬でも心ざわつかせる存在に..。長すぎるスカートがエスカレーターに引っかかりそうな所をそっとサポートする孫娘。。あらゆる人々を支えてきた人間はたった一人に支えられる事を喜び誇らしく思うのかもしれない。。

 

恋人にプロポーズをしに約束の場所へ向かう男性が見知らぬ老女に右腕を掴まれ、足に絡みつかれ、体半分を占領されたまま移動する(「寄生」)

短いお話なのに一番インパクトがあった。プロポーズという一大事に起こる災難。体半分の重みを感じながら、不思議と取り付かれた状況に慣れていく僕。。老女が離れ、自分の右半分の空洞に寄り添う僕。。短い時間でもどんな事でも無事にお役目が果たせるのなら...それは幸せな事なのかもしれない。。

 

小さな村の地域語を話す作家・巨人の来日。通訳の「私」は巨人の小さな声に耳を傾け、巨人の言葉を伝えていく(「巨人の接待」)

これは面白かった。冒頭の「いよいよ巨人が到着する」...グッと心掴まれた笑。ところが読み進めても想像してる巨人とはどこか違う。巨人は誰からも注目され感動を与える偉大な存在。巨人なのに周囲には届かないほどの小声。辛い過去で移動にトラウマを持つ巨人...小声の似合う巨人...鳥を愛する巨人...ポケットにパンを忍ばせることで安心感を保つ巨人...どれをとっても不思議で独特なのに他の話と違って多幸感が広がる。。言語の安心感は大きいなぁ。。唯一話せる私と巨人の心の交わりがとても良かった。

 

独特な人々の奇妙な才能が印象強いけど、心の空洞に寄り添うような話ばかり。そして人間は「移動」せずにはいられないと思った。物は移動され、人も移動し、数秒先には心が移動される。。そうやって生きていくんだろうなぁ。