おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風は、その場に居合わせた高校生の錬とともに咄嗟に犯人を追ったが、間一髪で取り逃がす。犯人の落とし物に心当たりがあった春風は、ひとりで犯人捜しをしようとするが、錬に押し切られて二日間だけの探偵コンビを組むことに。かくして大学で犯人の正体を突き止め、ここですべては終わるはずだったが――。
【感想】
第一章ではひったくり現場に居合わせた女子大生・春風と男子高生・錬は犯人の落とし物を手掛かりに春風が通う大学で犯人捜し。第二章で母子家庭で育ち、母と妹の生活を支える女子高生・理緒が謎の男と出会い、詐欺の手伝いをする。ひったくり事件と詐欺事件が絡み合い、思わぬ形で繋がっていく。物語が進むにつれ、二転三転と..巧妙なストーリーになっているので、読み応えは充分あります。若者が知らぬ間に犯罪に関わってしまう心理、抜け出せない貧困、理不尽な暴力、家庭環境など、それぞれが抱える複雑な事情にもがき、乗り越えるために強く立ち向かおうと躍起になったり、無力さに虚しくなったり、怒りを爆発させたりと..学生という立場の若者の無鉄砲さと孤独な闘いがリアルでした。
特に貧困に苦しむ若者(どの世代もだけど)の辿る道が人として決して許されない行為だけど、根底には「優しさ」が絡んでて、善悪の境界線が見えなくなってしまった先に足を踏みこむか、踏み込まないか...人生を一転してしまう一歩の恐ろしさを痛感しました。
「白と信じていたものが、次々とひっくり返り、見る間に黒く染まっていく」
人の心の内は見えない。家族でも信じていた側面が反転していくこともある。疑い出せばキリがないけど、信じる気持ちって大きな支えだと思う。一歩を迷った時、失いたくない何か(人でも信念でも)を強く思い起こせるといいなぁ。絶望の中でも小さな光を見失わない強さを持っていたい。