みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『自縄自縛の私』蛭田 亜紗子

 

自縄自縛の私

自縄自縛の私

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

どうしてそんなことを?と訊かれたならば、魔がさしたから、としか答えようがない。縄はどんな抱擁よりもきつく、私の躰と心を抱きとめる―。仕事に追われる日々の合間、自分を縛ることを密かな楽しみにしている「私」を描いてR‐18文学賞大賞を受賞した表題作、女子高校生の初恋が瑞々しい「渡瀬はいい子だよ」など、“不器用”さすら愛おしい女の子たちをめぐる、全6編。

 

【感想】

自縄自縛、使用済み〇〇蒐集、ラバー素材愛好家、性依存症、妄想、覗き魔...。

様々な性嗜好に驚かされる。縄にしても..ゴムにしても...知覚、触感、圧迫、高揚感...未知の快感に想像をかき立てられ...背徳感が迫られる。欲望の限界まで達してしまう、あるいは超えるというのは..恐怖がある。。女性たちの秘密を知る側は嫌悪というより、恐怖の方が先に立ち..遠のいてしまうと思う。彼女たちにしてみたら、「聖域」であり、踏み込まれる事は汚される事、自分を否定をされる事。。しかし、どの女性たちも羞恥心が先に立つが..認知...共感を無意識に望んでいるところがある。。女性的な感覚でもある。。不安、寂しさ、虚無感から弱くて繊細な自分を束縛していく様が痛々しい。自分を傷つけていく女性たちの心情や孤独が訴えかけられるようで、心痛む。生きにくい世の中で自分にルールを課していく事で日常を無事に過ごしていく。そこはなんとなく共感できる。

ただわたしは痛い描写や乱暴的な表現が苦手なので...性依存の女性の話は読んでいて辛かった。。どうしてそんなことを?と頭の中に何度も浮かぶやるせなさがあります。

『逆ソクラテス』 伊坂 幸太郎

 

逆ソクラテス (集英社文芸単行本)

逆ソクラテス (集英社文芸単行本)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

敵は、先入観。
世界をひっくり返せ!

逆転劇なるか!? カンニングから始まったその作戦は、クラスメイトを巻き込み、思いもよらぬ結末を迎える――「逆ソクラテス」
足の速さだけが正義……ではない? 運動音痴の少年は、運動会のリレー選手にくじ引きで選ばれてしまうが――「スロウではない」
最後のミニバス大会。五人は、あと一歩のところで、“敵”に負けてしまった。アンハッピー。でも、戦いはまだ続いているかも――「アンスポーツマンライク」
ほか、「非オプティマス」「逆ワシントン」――書き下ろしを含む、無上の短編全5編を収録。

【感想】

伊坂幸太郎さん、4年ぶりに読みました。

デビューしてから20年目の短編集。

主人公は小学生の子供たち。敵は先入観!どうひっくり返したのか、楽しみ!

 

決めつける教師の先入観を利用して、友達を助ける転校生のお話(「逆ソクラテス」)

「君はこうだ!」と決めつけられたら、こう答えよう。「僕は、そうは、思わない」なんてシンプルで力強い言葉なんだろう。

 

小学校の頃、同じバスケットチームの仲間5人。最後の試合、残り1分で惜しくも負ける。高校生となり、再会する5人。そこで事件発生...。過去の失敗に強い後悔を抱きながら、それぞれの高校生活を過ごす男子高校生たちの再生の物語(「アンスポーツマンライク」)

思いもよらず、感動しました。

 

ラストの「逆ワシントン」に登場する真面目で正直者が勝つという信念を持つお母さんが好きです。母は強し!最高‼︎この話に大人になったバスケの男子高校生も登場して..ポッと心が温まる。

伊坂さんらしいユーモアな言葉にクスっとしたり、率直な子供の発想、言葉、ひたむきさには胸打つ場面も。。親目線で読むと、反省してしまいます。先入観、思い込み、それだけで子供たちに不快な思いをさせていることはあると思う。息子にかけるお父さんの言葉にわたしは少し救われる。

「親になったら、お父さんたちの良かった部分は真似して、駄目だった部分はやめるんだぞ。そうすれば、ほら、だんだん完成形に近づいていくんじゃないか?」

 
小学生時代を思い出すことはあまりないけど、その頃に影響を与えてくれる大人たちが全て正解だと思い込む時期がある。。良い面も悪い面も大人になった自分の中にほんの数滴でも残っていて、時折どちらも出してしまう。。小さな世界で奮闘していた小学生時代を懐かしみながら読むと、爽快感もあり、しんみり切なさも感じられる。

『約束された移動』 小川 洋子

 

約束された移動

約束された移動

  • 作者:小川洋子
  • 発売日: 2019/11/12
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

こうして書棚の秘密は私とB、
二人だけのものになった――

ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。 Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。
ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く…… 「ダイアナとバーバラ」。
今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕…… 「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。

【感想】

移動する物語...とても興味がそそるテーマ。

印象深かったのは...

かつて世界を熱狂させ、栄光から転落へ堕ちていったハリウッド俳優Bが来日すると泊まるホテルのロイヤルスイート。千冊収められている書棚から決まって一冊が抜き取られる。客室清掃係はBの秘密の行動に気づき、デビュー作に想いを寄せる。冒頭から十八分四十秒後は彼女が最も愛しているシーン。行き場を失い延々と川沿いの道を歩くB。幼い頃から何度も祖母から聞いた象の移動の話を呟きながら象が黙々と歩いた道を歩き続ける...。抜き取られた本を読み、Bの隠された心の深い部分を読み取ろうとする客室係の物語(表題作「約束された移動」)

愛する移動シーンとBの心の淵に共鳴し、客室係としてのみ託された秘密を守り続ける。。世界の片隅で誰もが知り得ないスターの秘密を支えに日々の暮らしを淡々と生きる。。狂気との境目を感じるが..人間は孤独では生きられない。心に誰かとの繋がりを大切にしながら、生きていくのかもしれない。

 

過去にエスカレーターで怪我なく移動させる仕事や市民病院の案内係で訪問者の不安を取り除き、人に安心感を与える存在だったバーバラ。現在はダイアナ妃のどんな服でも手作りし、身に纏い、街を歩くバーバラの奇妙な行動に理解し、時にはお手伝いをする孫娘(「ダイアナとバーバラ」)

この設定が妙に面白かった。人を安心させる才能のある人が、今は奇妙なドレスに身を纏い、一瞬でも心ざわつかせる存在に..。長すぎるスカートがエスカレーターに引っかかりそうな所をそっとサポートする孫娘。。あらゆる人々を支えてきた人間はたった一人に支えられる事を喜び誇らしく思うのかもしれない。。

 

恋人にプロポーズをしに約束の場所へ向かう男性が見知らぬ老女に右腕を掴まれ、足に絡みつかれ、体半分を占領されたまま移動する(「寄生」)

短いお話なのに一番インパクトがあった。プロポーズという一大事に起こる災難。体半分の重みを感じながら、不思議と取り付かれた状況に慣れていく僕。。老女が離れ、自分の右半分の空洞に寄り添う僕。。短い時間でもどんな事でも無事にお役目が果たせるのなら...それは幸せな事なのかもしれない。。

 

小さな村の地域語を話す作家・巨人の来日。通訳の「私」は巨人の小さな声に耳を傾け、巨人の言葉を伝えていく(「巨人の接待」)

これは面白かった。冒頭の「いよいよ巨人が到着する」...グッと心掴まれた笑。ところが読み進めても想像してる巨人とはどこか違う。巨人は誰からも注目され感動を与える偉大な存在。巨人なのに周囲には届かないほどの小声。辛い過去で移動にトラウマを持つ巨人...小声の似合う巨人...鳥を愛する巨人...ポケットにパンを忍ばせることで安心感を保つ巨人...どれをとっても不思議で独特なのに他の話と違って多幸感が広がる。。言語の安心感は大きいなぁ。。唯一話せる私と巨人の心の交わりがとても良かった。

 

独特な人々の奇妙な才能が印象強いけど、心の空洞に寄り添うような話ばかり。そして人間は「移動」せずにはいられないと思った。物は移動され、人も移動し、数秒先には心が移動される。。そうやって生きていくんだろうなぁ。

 

『夢見る帝国図書館』 中島 京子

 

夢見る帝国図書館 (文春e-book)

夢見る帝国図書館 (文春e-book)

  • 作者:中島 京子
  • 発売日: 2019/05/15
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら...資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たちの悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。 日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴る。知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!

【感想】

フリーライターの「わたし」は国際子ども図書館で取材をした帰りの上野公園で年上女性・喜和子さんと出会う。喜和子さんと「わたし」のタバコの煙の会話は笑った。強烈な第一印象だよ笑。

この出会いが縁となり、「わたし」は喜和子さんに提案された「夢見る帝国図書館」というタイトルの小説を書く。喜和子さんの死後、「わたし」は喜和子さんとの会話や縁のある人々たちの思い出話を紐解き、喜和子さんの魅力的な人物像には想像できない辛い過去を知る。
喜和子さんと帝国図書館...ふたり?の人生に迫る物語。

 

現実のお話と交互に差し込まれる帝国図書館を主人公とした小説が良かった。日本初の図書館創立を始め、蔵書確保、図書館建設、増設の資金繰りに翻弄する図書館館長の苦労話。予算は戦費に回されちゃう(...悲しいなぁ)。。図書館に通う著名な文豪たちのエピソード。図書館が樋口一葉に恋する物語はほろ苦い。上野動物園の象の花子たちの悲劇。表現の自由は奪われ、お蔵行きの本たち。関東大震災から東京大空襲。焼けた上野公園に立ち並ぶバラック、モダンガール、ウーマンリブなど...大正から昭和の図書館と戦争の歴史。ユーモアを交えて描かれていたので、読み易くて面白かった。

わたしは京成線沿線に住んでいて、親しみのある上野の町。博物館、美術館、動物園、藝大など上野〜谷中界隈の懐かしさと新しさが融合した街並みや今は廃止となった博物館動物園駅など忘れていた風景が蘇り、親しみのある風景を思い浮かべ、これから変わりゆくであろう街をまだまだ楽しめると思うと...ワクワクするのです。。

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』 村上 春樹

 

おすすめ ★★★★★

【感想】

「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終わり」の二つの世界が並行して語られる物語。

ハードボイルドの主人公・私は、暗号を取り扱う「計算士」として「組織(システム)」に所属している。敵対する「記号士」の組織である「工場(ファクトリー)」と暗号の作成と解読の技術を交互に争っている。私は、暗号処理の中でも最高度の「シャフリング」(人間の潜在意識を利用した数値変換術)を使いこなせる存在であり、自らに仕掛けられた「装置」の謎を捜し求める物語。

「世界の終わり」の主人公・僕は外界から隔絶された一角獣が生息し高い壁に囲まれた街で「心」を持たないがゆえに安らかな日々を送る「街」の人々の中で、僕は「影」を引き剥がされるとともに、記憶のほとんどを失い、「心」を持たなくなる。「街」の持つ謎と「街」が生まれた理由を捜し求める物語。

何度目かの再読。「世界の終わり」の僕と僕の影と心を失った図書館の少女との「心」の話を読むたびに入り込んでいく。虚無感が漂うけど惹き込まれる世界観。。影を引き剥がされ、記憶を全て失う。影が亡くなった時、心まで失ってしまう。心を無くせば矛盾もなくなる。戦いも憎しみも欲望も生まれない。誰も傷つけ合わず、争わず、みな平等で与えられた労働を純粋に楽しみ、悩みもなくなり、平穏に暮らせる。。でもとても大きなものが失われる。。至福、絶望、愛情、幻滅。。悲しみがあるから喜びが生まれる。
私の心を見つけてと願う少女。僕と不自然な世界から逃げ出したい影。。自我のない世界の終わりで自分と向き合う僕。。「世界の終わり」の未来がどうなるのかは想像しかできないけど...先の見えない不安を抱えてる今...僕も少女も影も幸せであってほしいと願うばかり。。

『FLY,DADDY,FLY』 金城 一紀

 

フライ,ダディ,フライ (角川文庫)

フライ,ダディ,フライ (角川文庫)

  • 作者:金城 一紀
  • 発売日: 2009/04/25
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

鈴木一、47歳。いたって平凡なサラリーマン。ただし家族を守るためならスーパーマンになれるはずだった。そう信じていた。あの日が訪れるまでは―。一人娘を不良高校生に傷つけられ、刃物を手に復讐に向かった先で鈴木さんが出会ったのは―ザ・ゾンビーズの面々だった!脆くも崩れてしまった世界の中ではたして鈴木さんは大切なものを取り戻せるのか。ひと夏の冒険譚がいま始まりを告げる。

【感想】

会社までいつもの電車に揺られ、働き、いつもの電車で帰り、毎晩十時十分発のバスに乗り、スタメンたち(乗車客)に無言の挨拶を交わし、帰宅する平凡サラリーマン・鈴木一さん。妻と娘を愛し、娘の幸せを何よりも大切にする父。そんないつもの夜に平和な幸せを覆す出来事が起きてしまう。不良高校生に暴力を受けた娘。病院のベッドで変わり果てた姿の娘が助けを求め、手を差し伸べたが、握ることができなかった父。心を閉ざしてしまった娘。加害者はボクシングのインターハイチャンピオン。包丁を持ち出し、復讐の為に学校に向かう父、失敗に終わるが、そこで出会った男子高校生たちと娘の復讐のための猛特訓を始める。。見事復讐を遂げ、娘の心を取り戻すことができるのか?


痛ましい事件に腹立たしい加害者側の態度。闘争心を燃やし、相手を叩きのめす事を一心に体と精神を鍛える鈴木さんを応援したくなるのだけど..うーーん..ざわざわとした気持ちが過ぎる。。鈴木さんの本当に大切なものってなんだったのか?気づいて欲しい。

娘の心に光をあててくれる男子高校生たちの懸命さに胸が打たれる。特訓中、十時十分発のバスに乗らず、競争する鈴木さん。勝った瞬間が一番好きなシーン٩(๑>∀<๑)و,,いつもの日常が違う日常に塗り替えられていくのって、ちょっと楽しいよね。

理不尽な世の中に立ち向かう父と男子高校生たちの真夏の冒険譚でした。。

『嘘ですけど、なにか?』 木内 一裕

 

嘘ですけど、なにか? (講談社文庫)

嘘ですけど、なにか? (講談社文庫)

  • 作者:木内 一裕
  • 発売日: 2018/10/16
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

やっと出会えたはずの高級官僚の男は、新幹線爆破テロの発生直後から様子がおかしくなる。怪しんだ彼女が警察に通報すると、待っていたのは自分自身の逮捕だった。木内一裕10作目は、完全エンターテインメント大作!

【感想】

表紙の女性は著者の描いた..というのにまず驚く。読んだら、嘘偽りもなく、完全エンターテインメント笑笑。ものすごく展開が早く、読みやすかった。

大手出版社の編集者・水嶋亜希はクセのある担当作家たちのトラブル案件を巧みな嘘をついて解決していた。あくまでも仕事のため、正義のため、さっさと解決して、早くお酒を飲みたいがために?平然とウソをつく。恋の出会いに憧れる亜紀の前に現れた魅力あふれる高級官僚の男・待田。お酒の勢いで待田の部屋で一晩過ごしてしまう。。恋の始まり?と思いきや、新幹線爆破テロのニュースが...。爆破事故後から様子のおかしい待田に不信感を抱き始めた亜紀はとんでもない会話を耳にする。。そして思わぬ事態に...。

駆け抜けた痛快ミステリー。。久しぶりに何も考えずに楽しめました。待田のダメっぷりと亜紀の嘘をたっぷり。。笑