みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編』 村上 春樹

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

 おすすめ ★★★☆☆

 

【感想】(ネタバレ注意)

まりえ失踪事件が起こり「私」は解決の糸口を探す為に騎士団長に相談をする。指令通り、日本画家・雨田具彦と対面し、そこで騎士団長から「わたしを殺せ」と命じられる。従わなければまりえは救出できない。。殺害後、「私」は地底の国を彷徨う。。そこで過去と未来と向き合いながら、地上を目指していく。。。冒険ファンタジー。

読み終わり、、思ったのはとてもアクティブで優雅で濃厚な「私」の時間旅行日記だと、、思いました。妻からの離婚を突き付けられてから、自分の意志ということではなく流れに自然と沿っていく日常の中の非日常。。そこから不可解だった過去の思い出、奇妙な現象が起こる現在、未来に向かうための過去との対峙。。壮大だけどすごくコンパクトで密なお話でもあった。

村上作品では多い性描写が今回は攻撃的だった気がする。ユズと別れて一人旅をする東北のホテルの一室での「私」の夢。マンションで寝ているユズと性行為をする。とても過激で攻撃的な表現だったので驚かされた。。
まりえの大きな悩み。。「胸が小さい」は重要性があるのかどうか?どういうことだろ?思春期の少女のよくある悩み?というだけ?と頭の中で「???」が並んでいたが、、村上春樹さんと川上未映子さんの対談本『みみずくは黄昏に飛び立つ』でこの話題となり、村上氏は「まりえが胸の話をわたしにすることにより、わたしへの性的対象と見なしていない」という意図があったそうです。。わたしはその意図が全く伝わっていないと感じました笑。

第2部の中盤が読み進められなくなった時もありましたが、物語はとても楽しめました。

『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』 村上 春樹

 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 

 おすすめ ★★★★☆

 

【感想】(ネタバレ注意)

肖像画専門の画家・「私」は結婚六年目の妻・ユズからいきなり離婚を突きつけられ、広尾のマンションを飛び出し、愛車を飛ばして北へ一人旅をする。。そこで不思議な体験をする「私」
傷心旅行を終えた「私」は美大の頃の友人(父は有名日本画家・雨田具彦)から雨田具彦のアトリエの留守番を頼まれ、しばらく一人暮らし。屋根裏部屋で見つけた雨田具彦の世に出なかった絵画・「騎士団長殺し」を発見。。そこから「私」に巻き起こる奇妙な出来事の連続に頭を悩ましながら、、ご近所さんたちと様々な交流をしていく。。人妻との戯れを楽しみ、、隙のない完璧に近い謎多きお金持ち・免色の好奇心に流れ流され、、美少女・まりえと出会う。まりえの感性に惹きこまれていく「私」の創作意欲が高まり、肖像画ではない絵を描き始める。。

 

騎士団長殺し」の絵を発見してから「私」の周囲で奇妙なことが起こる。夜中の2時にどこからか鈴の音が鳴り、音の出所である穴を見つける。この穴の話を免色さんに相談をすることにより、お金持ち免色さんは業者を使い、大掛かりな作業をして、大きな石室を発見する。石室に閉じ込められていたイデア(観念)が騎士団長の姿となり「私」の前に現れる。。ホラー要素とファンタジー要素が混じり合う話に展開されていくが、一番の謎である免色渉の過去やまりえの父疑惑など浮上し、まりえ接近計画に「私」は巻き込まれながら、、その暮らしに満足している様子な第1部でした。

『八月は冷たい城』 恩田 陸

 

八月は冷たい城 (ミステリーランド)

八月は冷たい城 (ミステリーランド)

 

 おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

8月に読みたかった『八月は冷たい城』が夏バテ気味?のせいか、読書できず、9月になっちゃった。

こちらを読む前に『七月に流れる花』のおさらい。。再読しました。
夏の人・みどりおとこから封筒を渡された子供は帰宅の選択権がない外界から遮断された夏流城に強制参加をしなければならない。。夏流城での不思議な共同生活をする少女の物語。。この共同生活の本当の意味は?とても悲しく淋しい事実を知ることに。。。

 

『八月は〜』は夏流城の共同生活をする少年たちの物語。すでにこの共同生活の意味を明らかにされた上での物語。。少年たちにとって辛い場所となる夏流城で不可解な事故が起きる。。少年たちはお互い疑心暗鬼となり、、不穏な空気に包まれる。。「みどりおとこ」の正体は。。?
『八月』の方が、残酷性が高い内容ではあったけど、合わせで読むことにより、2冊同時に楽しめました。

『イノセント・デイズ』  早見 和真

 

イノセント・デイズ (新潮文庫)

イノセント・デイズ (新潮文庫)

 

 おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪により、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人など彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がるマスコミ報道の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士は再審を求めて奔走するが、彼女は……筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。

 

【感想】

とても感想を言いにくい本。
プロローグは死刑執行日。。
田中幸乃がこの日を迎えるまでの半生が他者の視点から綴られていく。。...
マスコミが作り上げる彼女。。彼女に触れ合った人々が作り上げる彼女。。彼女の心の内は。。
エピローグを読み終え、、またプロローグへ。。
女性刑務官の彼女へ向けた最後の言葉がとても心に残る。。穏やかな気分になりました。「救い」ってそれぞれの価値観であって、、個々に求めてる救いは様々なんだなぁと。。感じました。人の幸せは計り知れない。。幸乃は「人の裏切り」が死ぬより怖い。。最後の決断は幸せの道だったんだと思いたい。。

 

『院内カフェ』 中島 たい子

 

院内カフェ

院内カフェ

 

 おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

受診するほど病気じゃない。入院するほど病んでない。けれど、どこか不安な私たちは、あのカフェで、病院の傍らにいることで、癒されている。過去にあそこで「何かが良くなった」経験があるからだ。『漢方小説』から10年。新たな舞台は総合病院のカフェ。ふた組の中年夫婦のこころと身体と病をえがく、カフェの醸し出す温かさが流れる長編小説。

 

【感想】

総合病院にあるカフェ。
そこにやってくるお客様はみんな変わり者。
独り言を呟く男、態度の大きい医師、難病の夫と介護をする妻。土日だけバイトをする主婦兼売れない小説家。カフェの中の小さな出会いから、それぞれの悩みに向き合っていく。...

介護をする妻・朝子は両親の介護をし続け、体力、精神に疲れ果て、自分の人生は何なのか?と思い悩みながら最期まで面倒をみる。
介護から解放された朝子が襲う虚無感。「介護人」ではなくなった自分がからっぽの抜け殻のように感じられる。そんな時に、夫が難病となり介護生活へ。
朝子は夫との歩み方を深く考え、決断する。
妻から夫への手紙が、すごく考えさせられた。介護人の辛い気持ち。介護をする対象への依存。。大切に深く愛する相手だからこそ、重荷と思いたくない。ただそばにいたい。。深い愛情だなぁ。。じーん。

院内カフェ。。どんな立場の人々でも変わらず、そっと寄り添ってくれる空間。。とっても心温まるラストでした🏥

 

『ぼくは勉強ができない』 山田 詠美

 

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

 

 おすすめ ★★★★☆

 

【内容】

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ!凛々しい秀美が活躍する元気溌刺な高校生小説。

 

【感想】

友達関係良好、サッカー部の顧問の先生と気が合い、バーで働く年上の彼女を持つ、モテる高校生・時田秀美くん。
年下の女性が大好きなおじいちゃんと、出版社で働く恋多き母親と3人暮らし。...

秀美くんは小学生の頃から「父親のいない可哀想な子」「派手な母親をもつ可哀想な子」という周囲の同情や好奇な目に違和感を抱きながら、先生、家族、友人、彼女から学校で教わらない勉強をしていく。異端な考え方を持ち、大人から生意気な子供と言われ、女の子からはかっこいいと思われ、年上や母親からは悩み苦しむ姿を可愛いと思われ、そんな自分に自己満足したり自己嫌悪に陥ったり、結局なんだかんだとモテる人がかっこいいと思ってたり。。「どんなに成績が良くても、りっぱなことを言える人物でも女にもてなかったら、随分虚しい」
高校生が考えそうな発想だけど、男子ってこんな感じなのかな?
そんな秀美くんを周囲(特に家族と彼女)が魅力溢れる男性に育て上げていく所に共感を得ました。
学生の頃に感じるとても我慢できない場所ではないけど、居心地が悪い空間の自分という存在、周囲の滑稽な様子、自己価値観と他者価値観のズレの悩み。。そういう問題は学生だけではないはず。秀美くんの悩みはなんとなくわかるなぁ。
他者価値観も理解はできなくても受け入れる心の持ち主にはなってほしいと思いました。

 

『青の数学2』  王城 夕紀

 

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

 

 おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

数式(まほう)は解け、僕の青春が始まる。数学オリンピック出場者との夏合宿を終えた栢山は、自分を見失い始めていた。そんな彼の前に現れた偕成高校オイラー倶楽部・最後の一人、二宮。京香凜の数列がわかったと語る青年は、波乱を呼び寄せる。さらに、ネット上の数学決闘空間「E2」では多くの参加者が集う“アリーナ”の開催が迫っていた。ライバル達を前に栢山は……。数学に全てを賭ける少年少女を描く青春小説、第二弾。

 

【感想】

前作で京香凛に投げられた問い「数学って何?」栢山はその問いの答えを探していくうちに、日常的に問題を解き続けていた数学に苦しめられていく。E2(ネット上で数学の決闘をしあう闘技場)ではダークマターという名を名乗る者が、次々と決闘を申し込み、栢山の周辺の仲間が倒されていき、負けたものがE2の世界から消えていく。決闘をする意味は?数学の存在意義は?

話の途中で時折、父を亡くした少年とある男の会話が挿入される。少年は数学の定理、理論を学び、疑問を問いかける。何かを掴み、前へ進みだす少年。。
その後に繰り広げられる決闘。。さらなる高みに挑戦する姿。。胸が込み上げてくる。
数学に挑む者たちの苦悩、闘志、挫折、挑戦。。とても静かな描写の中なのに、、それぞれの数学への想いが熱く伝わってくる。青春って熱いなぁ。涙しました。