みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『マリエ』 千早 茜

 

おすすめ ★★★★☆

「離婚って失敗なの?」「恋愛と結婚って別物?」
桐原まりえは40歳を手前に離婚した。夫から「恋愛がしたい」と切り出され、2年近い話し合いの時期を経て、7年半の結婚生活に終止符を打ったのだ。理由に納得がいかないまりえだったが、自分はもう誰にも属していないと思うと心は軽やかだった。すべて自分の自由にできる生活が一番大事でそれを危うくする欲望に呑み込まれたくはないが、なにか不安で、なにか取りこぼしている気がする……。新直木賞作家が描く、おとなの女性の結婚と幸福をめぐる物語。

【感想】

千早さんご自身の離婚経験から感じ入る様々な思いが丁寧に描かれていて、離婚後の女性心理が真に迫り、経験のないわたしでも共感するところが多々あります。「傷つく」ことについて。「傷ついてる自分に傷つく歳になった」...わかるなぁ。内省する事が多くなってるからか、心に響く。千早さんの言葉ひとつひとつが、スッと胸に入り込む。

今まで気に留めなかった生活音や朝日の差し込む光など、ひとりだからこその五感の研ぎ澄ませ方や、他者との距離感にその人から放つ匂いで好感や苦手意識を感じるところも、香りを趣味としている千早さんならではだなぁなど、随所に千早さんを身近に感じさせられ、作家さんとして尊敬をする傍ら、一人の女性としての幸せや不安、葛藤を共に考え、人生の生き方、千早さんの生き方を垣間見ることができたのもうれしかった。食事の描写も素晴らしい。心理描写に反映されたり、情景の美しい演出になったり、そして何より食欲が刺激される。

恋愛や結婚、離婚への価値観は、年齢、環境、立場、そして歳の重ね方を通して、人の数ほど様々なので、切実な現実への不安や葛藤に悩みますよね。「その人の幸も不幸も、それぞれで努力するしかない」他者が幸せを決めることではなく、自分で決める。結婚が幸せの選択ならば、離婚も人生の幸せの選択。。離婚というネガティブなことも前向きな気持ちにさせられる。千早さんの等身大の物語。素敵な女性です。