みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『東京藝大 仏さま研究室』 樹原 アンミツ

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

2浪、3浪は当たり前、時には10浪以上の学生も……パンダと桜で賑わう上野公園に隣接する東京藝術大学。通っている学生も教授も少し変わった人ばかり。そんな東京藝大で、仏像の保存について研究する通称「仏さま研究室」の修了課題は、なかなか過酷で学生泣かせだ。様々な思いを抱え、真心を込めながらも、「模刻」に悪戦苦闘する学生たちを描く、クスっと笑えてグっとくる青春ストーリー。

【感想】

上野はアメ横だけでなく、美術館、博物館、動物園と芸術の街でもあるのです。芸術の街にあるのが国内唯一の国立芸術大学・東京藝大があるのです。上野公園では「芸術の散歩道」というイベントで藝大生の作品が展示されています。藝大アートを楽しむことができるので、天気が良いときはサイクリングをしながら、学生のアートを鑑賞してます(無料だし!おすすめ)。アートを生み出す藝大生たちってどんな人たちなんだろう?と手に取ってみた本。

「東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存専攻保存修復彫刻研究室」..長い名前..公的略称は「保存彫刻」..短い..笑。2浪3浪があたりまえと言われる東京藝大で親しみを込めて「仏さま研究室」と呼ばれる研究室では仏像の構造や修理法を学ぶ4人の修士2年生たちが修了制作をかけ、仏像の模刻に励む。外部の美大から大学院に進学したまひる、美術教師の父の期待に葛藤しながら2浪で合格をしたシゲ、4浪で合格をしたアイリは技術は天才的だが仏像修復に苦戦するアイリ、就活に乗り遅れ、将来に不安を抱く長身ドレッドヘアの落ちこぼれのソウスケ。それぞれが対象となる仏像に立ちはだかる困難に向き合いながら模刻の勉強をし、成長していく物語。学生たちの制作過程を通して、模刻の技術だけではなく、お寺との交渉や木材調達の難しさ、仏像や運慶の歴史、仏教の学び、仏像模刻、修復の意義を知ることができます。技術が優れていても、ご住職の気持ちに添えて修復をしなければならない。正確に誠実に元の仏像に近づける。仏師は良心的センスが問われる。作品を正確に作り上げるだけではなく、講評会で講師陣相手に「言葉を使ってもきちんと伝えること」も大切な修了制作のひとつ。厳しい世界だ。

「修了制作はな、早く正確につくることが目標ではないんや。美術史に残る仏像を自分の手で掘ってみることで、仏師がなにを思い、どこを工夫したのか、どこに悩んだのかを追体験する...いわば一緒に悩むことのほうが大切なんや」

藝大の役割は「新たな芸術をつくる者」と「人類が培ってきた芸術を守る者」その双方を育てること。教授たちも仏像模刻に対して熱い!学生がドン引きするくらい情熱的。芸術品の価値を何世代にも渡り、守ってきた芸術家たち。教授たちは、この文化の遺伝子を藝大で次世代の芸術家にバトンを受け継がせるすごいお仕事。藝大生としての役目を担う4人の芸術家はそれぞれの未来を歩み、またバトンを受け継がれる次世代が入学してくる。東京藝大ではこんな地道な苦労が繰り広げられているのかぁと感嘆しました。