みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ラブカは静かに弓を持つ』 安檀 美緒

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

【感想】

全日本音楽著作権連盟に勤務する橘 樹(いつき)。音楽教室の管理楽曲の著作権の侵害に対する証拠を見つけ出すために潜入調査をすることを命じられたのです。

著作権法22条

「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ、または聞かせることを目的として上演し、または演奏する権利を専有する」

音楽教室は教室内の演奏は「聞かせるための演奏ではない」と主張し訴訟をする。教室内の演奏が「公衆」なのかどうかを争点に裁判が行われるというわけで・・・身分を隠して、音楽教室に通い、チェロを習いながら、スパイをしなさいってことなのですが、、二年という期間は信頼関係を築き上げるのに十分な時間でもあり、身分を装い、欺いていくって並みの精神力では厳しい。樹は過去にある事件がきっかけでチェロを辞めることにより、心に深い闇を抱えてしまう。仕事の重圧や人間関係、チェロに関わることが樹にとって大きな負担のはずが、講師と信頼関係を築き、過去の自分と向き合い、チェロの演奏に意欲を持ち、仲間たちとの交流で柔らかな心地よい時間が流れ始める。。潜入調査の行末は...?

共通の趣味を分かち合える仲間がいる幸せを実感してるからこそ、共感できる。絆が深まるにつれ、罪悪感への苦しみにも、ハラハラさせられる。チェロの奥深さも良かった。音楽の力の素晴らしさを改めて感じた。。そして著作権の重要性。著作権を調査する側、音楽を使用する側の双方の視点が面白かった。