みみの無趣味な故に・・・

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『船に乗れ! Ⅲ 合奏協奏曲』 藤谷 治

 

船に乗れ! III 合奏協奏曲

船に乗れ! III 合奏協奏曲

  • 作者:藤谷治
  • 発売日: 2016/06/24
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

青春の苦悩をリアルに描いた大作、完結

高校三年に進学し、同級生たちが進路に悩むなか、津島サトルは音楽家としての自分の才能に見切りをつけようとしていた。その頃、南枝里子は人生をかけた決断を下す。
青春のすべてをかけてきた恋人と音楽とを失い、自暴自棄になったサトルは、思いもしない言葉で大切な人を傷つけてしまう。サトルは、人間の力ではどうにもならないことに向かって泣いた。 自らの人生を背負い、それぞれの想いを楽器に込めて演奏する合奏協奏曲。これが最後の演奏となってしまうのか? そしてそこへ現れたのは――!? サトルの船は、青春を彩るニーチェの言葉とともに、大海へと漕ぎ出る。
すべてを飲み込み、切なく美しく響く青春音楽小説三部作、最終章。

巻末に、宮下奈都さんによる解説を収録。

【感想】

思い描いていた夢と現実に苦悩するサトルと音楽の道に素直に突き進む同級生たち。高校三年生になると、進路という現実に突き当たる。。チェロを辞めると決めたサトルと音高生徒たちの最後の演奏。音楽の力って素晴らしいなぁ。演奏者たちと聴きての一体感。。音楽から離れても、この瞬間の音や臨場感は忘れられないだろうなぁ。全ての演奏を終え、ドラマが静かに終わりに近づいていく。。歓喜の中、サトルの空気が止まる。目の前に現れた...自分。サトルの罪にどう向き合い、どう乗り越えていくのか。。ここからはぜひ読んでほしい。。

サトルの学校の数少ない男子生徒の中でも、存在を光らせる美少年フルート奏者の伊藤くん。密かに行なわれた数分の秘密音楽会は涙が出た。。美少年だから気になる...というわけではなく、伊藤くんのサトルへの友情に密かに注目してたのです。サトル...健気な伊藤くんの思いに鈍感過ぎるよ。伊藤くんが音楽の道を続けていることが何よりもうれしい(←結局ファンなのだ)

サトルの祖父が語る「生活するために曲を作る音楽家」芸術家は気ままに作っているのではなく、仕事に困らないように切羽詰まって作る。生活のために魂を削り、精一杯よりいい曲を作る音楽職人。この話が好きです。

 

この本を読んで、「選んだ人生」と「選ばなかった人生」を考えた。サトルが選んだ道によっては天才的チェリストになったかもしれない。心に残る偉大なる人物になれたかもしれない。でもサトルは大事な人の人生から「なかったこと」とされ、尊敬していた人には「許されない存在」となり、取り返しのつかない失ったもの大きい。。人間の力ではどうにもならないものに立ち向かおうとして、打ちのめされた。。サトルの喪失感、罪悪感としていつまでも心に深くつきまとい、才能を見限る。音楽に真摯に取り組み、挫折したひとりの男子校生。。音楽でもあり、哲学でもあり、瑞々しい青春とは違う少し不恰好な自分の思いの丈を赤裸々に描いたリアリティのある青春音楽小説でした。

 

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