みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『爆弾』 呉 勝浩

 

爆弾

爆弾

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おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

東京、炎上。正義は、守れるのか。
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。

【感想】

酒屋の自動販売機を蹴りつけ、止めに来た店員を殴り逮捕されたスズキタゴサク。スズキは取り調べの最中に霊感が閃き、刑事に予言を伝える。予言の通り、次々と都内で爆発が発生する。スズキを傷害事件の加害者から連続爆破テロ事件の爆弾魔の容疑者となる。スズキと警察との心理ゲームが始まる。

不気味で、ヒリヒリさせられる衝撃的な内容だったけど、面白かった。スズキタゴサク(49歳男)の存在感が物語が進むにつれ、色濃くなっていく。傷害事件で逮捕された序盤では陰気で劣等感が強く自虐的、低姿勢な態度の冴えない中年男。小さな事件を起こした気弱な男と思いきやどんどん怪物化していく。取調官の奥底に潜む憎悪を引き出していき、本心にじわじわと迫りゆき、感情を破壊していくサイコパス。人の醜い部分を最大に引き出し、恐怖心を煽られる。追い込むはずの刑事が逆に追い込まれていく。不気味な存在感を放つスズキタゴサクの真意は暴けるのか?というタイミングで登場した頭脳派の類家刑事。二人の心理戦で一気に面白さが加速していく。目には目をサイコパスにはサイコパスを。なかなか読みごたえがあります。極限状態の時の心の脆さ、命の優劣による人の偽善、崩壊されていく道徳心。爆弾は誰もが無自覚に持ち合わせている悪意なのか...強制的に目を向けさせられる人間の醜さの爆風を感じながらもラストまでページをめくる手が止まらなかった。今のところベストです。