みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『さよならに反する現象』 乙一

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

哀しみの先には、何があるのだろう──。乙一作家生活25周年記念短編集!
心霊写真の合成が趣味の僕が撮影をしていると、一人の女性がカメラに映りこんできた。しかし撮影されたデータには無人の交差点が映っているだけだった。映りたがりの幽霊、悠川さんがこの世に残した未練とは……?(『悠川さんは写りたい』より)
ほか、乙一贈る恐ろしくて切ない出会と別れの短編集。

【感想】

「そしてクマになる」リストラされたことを言えない父親の、家族に秘密のアルバイトとは。

(不安やうしろめたさからくる怒り、嫉妬、増悪など様々な負の感情に入り込まれてしまう父親。疑心暗鬼に陥る人間の心理状態が怖かった)

「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」イヤミ邸で働くカラ松が死体となって発見された。犯人は誰?

(娘が持ってるおそ松さんの小説に登場する「なごみ探偵おそ松」を以前読んで面白かった。まさか乙一バージョンが読めるとは笑。不可解な事件になると呼ばれるなごみ探偵。でも事件を解決しないの。ただ殺伐とした事件現場をすごくなごませてくれる。カラ松の遺体の周りでホッとする笑いがちりばめてありました。なごむ~)

「家政婦」私が家政婦を務めるのは、死んだ人間が来る家だった。その地域で死んだ人間があの世にいくための通り道。この世とあの世を繋ぐ家。

(ラストは不思議なゾワッと感を味わえます。現れた人間は死人だった..?わたしの友達の実家も見知らぬ人たちが通り過ぎていくそうで、家族は他人がいてもあまり驚かなくなったと言ってた。わたしがお邪魔した時、少し興味があったものの見ることはなかった。友達の家も亡霊が最後に訪れる場所だったのかもしれない)

「フィルム」星野源の「フィルム」にインスパイアされて生まれたショートショート

(星野源さんの歌詞が冒頭に記載されていたので、最初に歌を聴きました。どんなことも胸が裂けるほど苦しい。声を上げて飛び上がるほどに嬉しい。そんな日々がこれから起こるはずだろ。。人はそのくりかえしだよね)

「悠川さんは写りたい」心霊写真に写りたい幽霊が出会ったのは、心霊写真を作ることが趣味の青年だった。

(これ乙一さんらしい物語。家族を火事で失った孤独な青年の趣味は家族の写真で心霊写真を作ること。製作の為に訪れた交差点で出会った幽霊。死んだ女性の未練を果たしてあげたい青年と幽霊との短い交流。最後に青年に起きた小さな奇跡。ホロリとさせられるわ)

 

乙一さんにしては印象が薄い短編ばかりで物足りなさは正直ありました。怖さがじわじわと心に忍び込み、切なさと物哀しさが入り混じり、ラストは優しい気持ちになる乙一さんの物語が大好きなのです。時にはグロテスクな作品もありますが、期待を裏切らない鬼才っぷりに惚れ惚れしてしまうのです。作家生活25周年おめでとうございます!これからも異彩を放つ作品を生み続けてほしい。