みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『永山則夫 封印された鑑定記録』 堀川 惠子

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

連続射殺犯・永山則夫。犯行の原因は貧困とされてきたが、精神鑑定を担当した医師から100時間を超す肉声テープを託された著者は、これに真っ向から挑む。そこには、父の放蕩、母の育児放棄、兄からの虐待といった家族の荒涼とした風景が録音されていた。少年の心の闇を解き明かす、衝撃のノンフィクション。

【感想】

以前、著者の『教誨師』で、命の重みを深く学び、今回は「家族」や「罰」を深く考えさせられた。

永山則夫というと、「永山基準」が連想される。恥ずかしながら、事件の概要はあまり知識なく、現在の死刑基準という認識しかなかった。

昭和43年10月から11月にかけて、わずか26日間で東京、京都、函館、名古屋で射殺事件が起きる。人々を震撼させた連続射殺犯は凶悪犯のイメージから程遠い19歳の少年だった。

少年事件で非常に重要な鑑定考査を担当した石川医師は幼少期から事件、裁判、鑑定に至るまでの永山の独白テープを世に出すことなく保管をしていた。著者は渡された100時間も及ぶ肉声テープを一字一字拾い出し、医師、家族、被害家族に取材をし、永山則夫の著書を交え、心の闇を解き明かし、死刑執行から16年、ようやく隠された動機が明らかになる。

永山の生い立ちは想像を絶する惨さ。貧困、育児放棄、虐待...凶悪犯罪の背景には家庭環境の劣悪さが問題視されるが、誰もが犯罪を起こすわけではない。母に育児放棄され、兄弟から虐待を受け、まともに学校に通えず、唯一信頼をしていた母親代わりの長女と引き離される。生活の為に必死で働き、放棄の自覚のない母も、姉兄妹も永山本人も、博打にのめり込んでしまう父も..全てが負の連鎖に苦しめられてる。家族誰もが幸せとはいえない人生を送る。特に蓄積される家族への憎悪を抱えながら懸命に生きる則夫は不幸から抜け出すことができずに...。

 

少年事件を扱う弁護士の言葉

「少年事件はあまりに偶然が左右するということです。あの時この人と出会っていれば、この一言があればということがすごく多い」

石川医師も、永山の独白を聞き、この時に、永山にかける家族の言葉がこうだったら...ああだったら...この事件は起きなかったはずだと、何度も悔やむ姿が見受けられます。未熟で無知な少年期だからこそ、ひとつひとつの言動に過敏になり、左右されやすく、思いもよらない結果を引き起こす。人と距離を置き、不信感が強く、孤独だった永山則夫は逮捕後、石川医師と向き合い、読書と執筆活動に力を注ぎ、獄中結婚をし(妻の呼び名がミミでびっくり)、人として成熟していくのです。人との繋がり、縁が人生に影響し、心豊かにしていくこと...少年期に..とやはり悔やまれる。

全身全霊をかけて、永山則夫と向き合った石川医師が心血を注ぎ込んだ鑑定記録を読み、加害者の悲惨な生い立ちに同情はするし、書籍の印税を被害者家族や貧困の子どもたちに寄付する姿勢には心響くものはあるが、やはり被害者側の立場として読むと、無期懲役となる二審での被害者の憤りには、共感せざるおえない。人を裁くとはどういう事なのか?死刑執行を求める加害者の罰とは?人間の心の奥深さを本当に理解できるのか?とても難しい問題です。