みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『52ヘルツのクジラたち』 町田 そのこ

 

52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。

【感想】

一般的な鯨の鳴き声の周波数は10〜39ヘルツで、52ヘルツの周波数で鳴くクジラは非常に珍しい鯨の種であり、世界で唯一の個体。。高音で聞き取りにくく、他のクジラに声は届かない。「その声は広大な海の中で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない」。。52ヘルツの鯨は世界で一番孤独なクジラと呼ばれている...。

大分の海沿いの町に引っ越してきた貴瑚。訳ありな様子で、地元の人々から在らぬ噂を立てられる。人々との関わりに疎ましさを感じながら、孤独に生きる貴瑚の前に現れた少年は母親から「ムシ」と呼ばれ、虐待を受けている。声を発せない少年との意思疎通がままならないが、必死に受け止めようとする貴瑚。貴瑚自身も心に深い傷を持つ女性。不幸な生い立ち、この町に行き着くまでの事情が、とても辛い。そんで重い。。しかし貴瑚を必死で守る友の存在がいるのです。貴瑚を家族から救い出したアンさんの存在はとても大きい。。アンさんこそが52ヘルツのクジラと気づくと、とても切なくて、やるせない。幸せな形があったのではないか。幸せになってほしかった...命を落とすことはなかったのでは...救われないままなんて...と歯痒さを感じるのでした。

登場人物たちはあらゆる社会問題に苦しんでいます。幼児虐待、ネグレクト、DV、トランスジェンダー。重いテーマを盛り込み過ぎてるようにも思えますし、子供の虐待には目を覆いたくなります。しかし現実では様々な苦しみを抱えてる人々が悲痛な声を発することもできず、誰からも受け止められないまま...負のスパイラルに陥り、孤独に耐えながら生きる...もしくは命を失う...最近も幼い命を奪う悲しい事件がありましたね。。水面下で見えにくい社会問題に一人でも多くの人が目を向けていくには、いいきっかけになる本だと思います。。
貴瑚への親友の力強い言葉「迷わず言って。何があっても、助ける」優しさに触れて救われることもあります。。声を少しでも救い出せる世の中になってほしい...受け止められる強さを持ちたいと...思ったのでした。