みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『赤と青とエスキース』 青山 美智子

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

一枚の絵画を巡る5つの短編連作集。

【感想】

「金魚とカワセミ」 

メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちる。
しかしレイは、留学期間が過ぎれば帰国しなければならない。
彼らは「期間限定の恋人」として付き合い始める。

(異国での短い恋。不安定な感情や若さゆえの揺らぎが淡くてほろ苦い)

 

「東京タワーとアーツ・センター 」
額縁工房に勤め始めて8年。30歳の額職人・空知は、仕事に対し、迷いを感じていた。そんな時、十数年前にメルボルンで出会った画家・ジャック・ジャクソンが描いた「エスキース」というタイトルの絵画に出会う。

(絵と額縁が完全にマッチした状態のことを、「完璧な結婚」って表現するんだって。絵画を鑑賞してると、額にも魅了されることがある。絵の魅力を最大に引き立たせる額職人の話。これ一番好きだな)

 

「トマトジュースとバタフライピー 」
漫画家タカシマの、かつてのアシスタント・砂川が、漫画界で栄誉ある賞を受賞した。画廊のような喫茶店で行われた雑誌の対談企画で久しぶりに砂川に再会したタカシマは、若い天才の言動に劣等感を抱く。

(喫茶店に飾られていた「エスキース」。。エスキースって「下絵」という意味のようです。完成画を描く前の準備段階...誰もがエスキースから始まるんだよね)

 

「赤鬼と青鬼 」

輸入雑貨店で働く51歳の茜。海外での買付けを任される事となるが、別れた恋人・蒼の部屋に置いてきたパスポートを思い出し、かつて同棲していたアパートを訪れることに..。

(輸入雑貨店のオーナーの言葉がとても良い。玉手箱の話が良かった。箱を開いて年老いて嘆くのではなく、過去をしみじみ懐かしみ、年を重ねた自分を実感し、その時、過去の自分に胸を張れるような生き方をしたい。素敵だなぁ)

 

ブーから、友人の若手画家の絵のモデルを頼まれるレイ。この一枚の絵から始まる愛の物語。恋人への愛、画家への愛、愛弟子への愛、かつての恋人への愛。それぞれの愛がとても優しく、温かく、純粋で綺麗。エピローグで読者はアッと驚かされます。全てが綺麗(上手)すぎて、少し天邪鬼な気持ちが芽生え、素直に受け止められない自分がいたことにも驚いた笑。

美術館で絵画鑑賞をすると、年齢やその時の状況、感情によって、絵から受け取るものが全く違う。読書にもそれは通じる。この作品もそれぞれの年齢も立場も違う人々が一枚の絵を通して、様々な思いを巡らせていきます。わたしは「エスキース」から何度でも書き直し、自由に描いていいという壮大な愛、寛容な心を感じ取りました。一枚の絵が全ての愛を包み込んでくれているかのようで、とても温かい読後感を得られます。そして二度読みするでしょう。