おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説。
【感想】
「当社のチャラ男」、「弊社のチャラ男」、「地獄のチャラ男」、「チャラ男のおもちゃ」...と陰で「チャラ男」と呼ばれる三芳道造部長(44歳)。。彼を取り巻く人々が語る会社とは?仕事とは?恋愛とは?人間とは?チャラ男とは?会社で働く人たちの現実を描いた連作短編集です。
一つの会社で働く年齢も性別も立場も性格も違う人々の主観で語られる話が、別の話では、他者の目を通して語られることによって生じる主観と客観の差異、閉鎖的な会社の体質への不満と諦め、共通の話題でもあるチャラ男が生み出す一体感、それぞれが担う役割など、読み進めるうちに社員たちの特徴や人間関係、社内の実態が浮かび上がってくる。女性たちの厳しい目で観察される職場に一定の確率で必ずいるチャラ男。「チャラ男の話はコピぺ(ネット情報の受け売り)、いい加減なのに上手に生きて、物事をほったらかしにしても平気、最も嫌がるのは無視されること」と、なかなか厳しい指摘。
男性社員が考察する「猿山理論」が興味深い。
男の猿山と女の猿山の行動の違い。男の猿山は才能、地位、稼ぎが圧倒的な力を持つ。山の地名度にこだわり、高い山にいることで強さを保てるが、山から離れると心身がとても弱くなる。女の猿山は低山で豊かで優しそうなのだが、複雑で危険。死ぬこともある。山から下りることに恐れがない。離れれば離れるほど強くなっていき、別の山に移住をすることもできる。険しく厳しい高山に住む女性もいて、男性は太刀打ちできず慄くばかり。チャラ男は違う。一つの山にしがみつかず、様々な山に放浪して生きていける者。自由で羨ましく妬ましい存在。なのでチャラ男には親友はいないとの理論でした。チャラ男本人はチャラいのを自覚していて、彼なりの役割を全うしていたり、時には潤滑油にもなるので、悪い人ではないのです。いい人でいる必要性の有無はともかく、人望が無さすぎなのは...どうなの笑
会社で働くことは一つの時代を生きることで、会社が破綻し、倒産しても誰でも人生は続いていく...「その後」への通過点。現代の会社員の苦悩や働き方を提起してるのかと思います。絲山さんの皮肉を含んだ言葉のセンスは、面白い❣️