みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『名短編、ここにあり』 北村 薫 宮部 みゆき編

 

名短篇、ここにあり (ちくま文庫)

名短篇、ここにあり (ちくま文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

本の目利き二人の議論沸騰し、迷い、悩み、選び抜かれたとっておきのお薦め短篇12篇。半村良「となりの宇宙人」、黒井千次「冷たい仕事」、小松左京「むかしばなし」、城山三郎「隠し芸の男」、吉村昭「少女架刑」、吉行淳之介「あしたの夕刊」、山口瞳「穴」、多岐川恭「網」、戸板康二「少年探偵」など、意外な作家の意外な逸品、胸に残る名作をお楽しみ下さい。文庫オリジナル。

 

【感想】

印象深かったのは、、
黒井千次「冷たい仕事」
出張先の冷蔵庫の霜を徹夜して取る話(妙に吸い込まれた)

 

吉村昭「少女架刑」
16歳の少女。死者となり、献体へ。体を刻まれ、燃やされ、最後は骨になるまでの少女の一人称で綴られる。
乙一さんの『夏と花火と私の死体』を思い出す。解説でも話に出てました)

 

松本清張「誤訳」
詩歌文学賞を受賞した民族詩人プラク・ムル氏。翻訳家ジャネット・ネイビアは難解な原文を正確に訳し、才能と努力を賞賛される。受賞後のムル氏の声明を通訳したジャネットの誤訳が発覚。
(詩歌の現状や翻訳の難解さなど、世界の文学話からの急展開。。一気に人間ドラマに変貌。濃厚なショートショート

 

円地文子「鬼」
結婚間際になると破談してしまう鬼に憑かれた女性。
(品格の備えた美しく優しくなまめかしい母親。。娘への嫉妬。。怖い)

 

最後の北村さんと宮部さんの解説対談がとても面白い。12作品のユーモア、哀愁、独特で不思議な世界を作家目線の感想と見所で話されて、奥深い。作家さんへの敬意もあり、読書の喜びが感じられる。対談を読んでから短編を読んでも、より一層楽しめると思います。

『ビタミンF』 重松 清

 

ビタミンF (新潮文庫)

ビタミンF (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

 

【内容紹介】

38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。一時の輝きを失い、人生の“中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか——」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。

 

【感想】

「はずれくじ」
40歳。妻の入院で中学1年の息子と2人暮しをするが、しっくりいかない息子との暮らし。亡き父との思い出が蘇る。小さな役場で真面目に働く父。楽しみもなく、平凡に生きる父が唯一宝くじだけを買い続けていた。当たるわけがない。絶対に当たらないわけでもない。期待とも夢とも違う宝くじ。。はずれくじを手にする父はどんな想いだったのか?

 

この話は泣けた。。自分の知らなかった息子の姿。。目の当たりにした瞬間って照れや希望や言葉では表せない思いが込み上げる。父子の接する時間は短いけど、その分、心により深まる瞬間があるんだなぁ。。良い話だった。

 

「なぎさホテルにて」
37歳の誕生日を思い出の場所で家族と過ごす夫。妻と2人の子供たちとのささやかな幸せ。不意に「俺の人生、これ?この女と一生夫婦でいるのか?」と思い始めてから、妻への嫌悪感が増す。。「離婚してもいいけど」と嘆き悲しむ妻から呟かれ、最後の家族旅行へ。20歳の頃の恋人と宿泊したなぎさホテル。当時ホテルで企画されていた「未来ポスト」に恋人から17年後の自分に宛てた手紙が届く📮...。

 

これは、妻目線で読むと、、非常に居た堪れなく切ない。。宿泊先の妻の名を昔の彼女の名前に...。過去の恋人の思い出に耽り...。手紙も無造作に置かれ...。「決して妻が悪いわけではないけど、なんか違う」という理由だけで、この仕打ち。。男の人ってたまにものすごく鈍感。。でも女性は男性の弱い部分に寄り添いたくもなり、励ましたくもなる。。2人の女性に救われる男。。ささやかどころではない幸せ者。。

 

「母帰る」
30年以上連れ添った妻に熟年離婚された父。10年経ち、内縁の夫に先立たれた妻をもう一度、この家に迎え入れたいと言い出す父に姉と弟は反対。。

 

お父さんの愛情がとても伝わるお話で、子供たちにはわからない長年連れ添ったからこその夫婦愛を感じました。

 

 

父親と母親の子供への期待、心配事、価値観の違い。。子供の評価一つをとっても言葉のズレが生じる。。信頼、期待から外れた子供に裏切りを感じたり、大人になる娘への不安と焦りにより妻を非難したり。。父親像を大きく膨らませた父親の目線がいかに家族というものをうまく捉えていないかということがわかる。。不器用だけど愛情深い父であり、妻との噛み合わなさに苛立つ夫でもあり、老いた父を心配する息子でもあり、いつまでも奮起したい男でもあり、、と自分の居場所を探す中年男性の気持ちが詰まった一冊でした。

『つむじ風食堂の夜』 吉田 篤弘

 

つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)

つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

懐かしい町月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。 

 

【感想】

雨の研究をする作家・雨降り先生。。手品師の亡き父との思い出を振り返りながら、食堂に集う人々とのゆるやかな交流。。不思議な日常。。クスクスっとしてしまう会話(本人たちはいたって真剣)。。

先生のお仕事の依頼がなかなか面白く、難易度不明笑。「唐辛子」にまつわる伝説を楽しい感じで書くという不思議な依頼。笑。

デニーロ親方のお店に置いてある参考文献。。

「唐辛子の中に暮らしていた小さな赤ガエルの親子の物語」や「唐辛子が唐辛子をやめたくなった話」など、、読みたい笑笑

 

こじんまりとした商店街の中で繰り広げられる会話は遠い異国から宇宙まで発展する壮大さ。。文章が柔らかくて、街並みの雰囲気が温かく、時の流れがゆる〜く感じられ、、懐かしくホッとさせられる物語。。一気読みはもったいないので、少しずつ、、少しずつ読んで楽しみました。。🎩💫

『勁草』 黒川 博行

 

勁草 (徳間文庫)

勁草 (徳間文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

橋岡は「名簿屋」の高城に雇われていた。名簿屋とはオレ詐欺の標的リストを作る裏稼業だ。橋岡は被害者から金を受け取る「受け子」の手配も任されていた。騙し取った金の大半は高城に入る仕組みで、銀行口座には金がうなっているのだ。賭場で借金をつくった橋岡と矢代は高城に金の融通を迫るが…。一方で府警特殊詐欺班の刑事たちも捜査に動き出していた。最新犯罪の手口を描き尽くす問題作!

 

【感想】

オレオレ詐欺。。「ひとの不安と情と虚を衝く」犯罪。。ゲーム感覚で高齢者からお金を騙し取る罪悪感の低さ。生活保護者など社会的弱者を雇い、ビジネスとして徹底された組織化。下層の人たちが、バイト感覚で詐欺の加担に気づかないことなどなど、、加害者側の視点から組織犯罪の実態が描かれ、驚かされる。。犯罪者たちは、自分勝手でどうしようもない人ばかりだし。。

 

業界用語↓
名簿屋=標的候補から個人情報を調べ上げ騙しのリストデータベースを作る。
掛け子=名簿を元に電話で騙す役。
受け子=被害者から金を受け取る。
道具屋=詐欺に使う飛ばし携帯、架空口座の調達。
番頭=掛け子と受け子のリーダー。現場統括者。
ケツ持ち=トラブル解決をする暴力団構成員。
金主=組織のトップ。オーナー。

 

中盤までの詐欺組織側の手口は読んでいて虫唾が走るが、、巧妙に個人情報(家族構成、所有資産、取引先金融機関、息子の勤務先、連絡先等)を引き出されていく高齢の方々の警戒の低さも、、とても怖い。。自分も気をつけなければと心から思う。。

中盤から後半への犯人と刑事の攻防戦。地道に地道に捜査をし、追いつきそうで追いつかない。。息がつまりそうな逃亡劇と追跡が繰り広げられたけど、読み応えが徐々に薄まってしまい、、最後は腑に落ちない終わり方。。それでも、いつかは被害者になるかもしれない身近な犯罪の罠など、勉強になりました。

 

「オレ、オレ、オレだよーー」はもう古いのね。。既に息子の個人情報は抜き取られてしまってるので、「〇〇だけど...」と電話がかかってくるのが今流?息子でも警戒心溢れるわ。
非通知はもちろん、知らない電話番号からの息子の電話は信用しないで、本物の息子に確認しましょう。。📞😌(...冷静に)

『旅猫リポート』 有川 浩

 

旅猫リポート (講談社文庫)

旅猫リポート (講談社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【内容紹介】

さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ。一人と一匹が見る美しい景色、出会う懐かしい人々。心にしみるロードノベル。

 

【感想】

読もう読もうと思いながら、、なんとなく先延ばしをしていた本。動物本の泣かせ系は躊躇いがち。。😌📖💭
映画化を機に読みました。
全身じんわり温かい何かが広がっていく心地よい読後感に包まれています。。ふぅ。。(*´ω`*)

 

瀕死状態だった野良猫のナナを救ったサトル。。サトルとナナの5年間の暮らしが、とある事情でナナを手放すことに。。引き取り手を探しにサトルとナナの旅が始まる。。ナナの生意気な語り口調が愛らしい。。サトルの人柄、様々な景色、出会った人や動物たち。。ナナの見る景色の素晴らしいこと。。ナナが見た海の印象。。わたしも全く同じで笑った。。わかるよ。。怖いよね。。
旧友たちとの再会でサトルの過去が少しずつ明かされていき、、最後の旅へ。。サトルの叔母・ノリコの心のほぐれ方。。決壊寸前。゚( ゚இωஇ゚)゚。。もう感情入り込み過ぎて、、参ったわ。。相手の気持ちを汲み取るサトルとナナ。。自分が同じ立場になったら、こんなに優しくできるかなぁ。。なりたい。。相当強くならないとだけど。。


心優しいサトルと人への気遣いを忘れないナナ。。最強コンビの愛溢れる旅猫リポート。。まだまだ続きそう。。猫もいいね。。犬好きでもそう思う。。🐈💕

『愛なき世界』 三浦 しをん

 

愛なき世界 (単行本)

愛なき世界 (単行本)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【内容紹介】

恋のライバルが人間だとは限らない!

洋食屋の青年・藤丸が慕うのは〝植物〟の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差する――

本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。


【感想】

人との愛の語らいより、植物との語らいの方が大事。。デートを楽しむより、シロイヌナズナの細胞の数を数えている方がずっと楽しい。。植物という銀河の渦に生きるひと・本村紗英(国立T大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻の大学院生)
教授や研究仲間、近所の洋食屋「円服亭」の住み込み店員・藤丸陽太との人間的ふれあい、恋?(藤丸くんのライバル植物との闘い)もあり、、真面目で面白いリケジョ話。

さて読み進めるのに苦戦した本村さんの研究内容。。シロイヌナズナの四重変異体を作る。。遺伝子abcdに変異株abcdを交配させ...メンデルの「分離の法則」で...abと二重変異体となり...abcと三重変異体となり...abcdと...ゥトゥト(´-ω-)´_ _(。-ω-)zzz. . . (。゚ω゚) ハッ!! えっと...「バスタ耐性」の割り込みで遺伝子破壊...aacc...aabbcc...(´-ω-`)zzzとなるときもしばしば。。それでも本村さんの思考が面白くて、笑いが起きる。。気長な作業の積み重ねでの失敗への落ち込みは共感。。SEだった頃、こんなくりかえしだった。。期待と絶望。。地道な作業。。這い上がれない迷宮と思考破壊。。その苦しみが少し蘇る研究シーン。。眠りに誘われるけど、地道な研究が新たな道や世界的発見に繋がるのだから、、好奇心と探究心の無限さを感じる。。

愛も意識もない植物の世界に魅了され追求する研究者の植物愛の世界。。知らない世界をまた教えてもらえた。。装丁がとても素敵。。📘✨

『異セカイ系』 名倉 編

 

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【内容紹介】

「小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説通り悪の黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に♪ってボケェ!!作者が姫を不幸にし主人公が救う自己満足。書き直さな!現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや!あれ、何これ。「作者への挑戦状」って…これ、ミステリなん?」

 

【感想】
小説家志望のニート。小説投稿サイトランキング10位に入り、心弾むが、現実の「ふつう」の人生に虚しさを感じる。。むなしい..むなしい..むなしいむなしい。。突如異世界へ(かなり唐突に)。。自分の事を「カミサマ」と呼ぶネコミミ少女登場。名前は「イヴァナ・ニャルキャット・ニマニム」。。覚えのある風景。。目の前に理想の女の子「イヴァにゃん」。。あれ?ここは自分の書いてる小説『臥竜転生』の世界。。セリフも街並みもシナリオも同じ。。シナリオの筋を変えると現れる闇。。筋通り、物語を進める主人公(作者)。。小説世界と現実世界を行き来する夢のような世界を楽しむが問題発生。。これから起こる小説世界の人の死。。憤る主人公(自分が書いてるのだけど)。。そこでシナリオを書き換える事に。。結果、読者の評価が下がる。。ランキングも下がる。。苦悩。。小説家は娯楽や感動のために登場人物を簡単に殺す。。「殺す」意識はないが殺す。。殺人行為?。。またも苦悩。。小説世界での命。。尊い命。。『臥竜転生』を存続させたい。。誰も殺したくない。。第2章へ。。新たな物語『異セカイ系』を書く。。キャラからの「作者への挑戦状」。。さらに苦悩。。果たして答えは導き出せるのか?キャラを救うことができるのか?。。第3章へ。。


しまった。。夜に読み出してしまった。。初めはとんでもない話を読まされてる気持ちになっていたのに、気づいたら、、止まらない。。寝ないと行けないのに、、真夜中の迷宮入りにハマってしまった。。創造主。。作者。。神。。きみがわたし。。わたしがぼく。。キャラと作者の融合。。小説の正義とは?悪とは?なんともすごいセカイ系。。さて、寝よう。。異セカイ系から離れないと。。