みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ビタミンF』 重松 清

 

ビタミンF (新潮文庫)

ビタミンF (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

 

【内容紹介】

38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。一時の輝きを失い、人生の“中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか——」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。

 

【感想】

「はずれくじ」
40歳。妻の入院で中学1年の息子と2人暮しをするが、しっくりいかない息子との暮らし。亡き父との思い出が蘇る。小さな役場で真面目に働く父。楽しみもなく、平凡に生きる父が唯一宝くじだけを買い続けていた。当たるわけがない。絶対に当たらないわけでもない。期待とも夢とも違う宝くじ。。はずれくじを手にする父はどんな想いだったのか?

 

この話は泣けた。。自分の知らなかった息子の姿。。目の当たりにした瞬間って照れや希望や言葉では表せない思いが込み上げる。父子の接する時間は短いけど、その分、心により深まる瞬間があるんだなぁ。。良い話だった。

 

「なぎさホテルにて」
37歳の誕生日を思い出の場所で家族と過ごす夫。妻と2人の子供たちとのささやかな幸せ。不意に「俺の人生、これ?この女と一生夫婦でいるのか?」と思い始めてから、妻への嫌悪感が増す。。「離婚してもいいけど」と嘆き悲しむ妻から呟かれ、最後の家族旅行へ。20歳の頃の恋人と宿泊したなぎさホテル。当時ホテルで企画されていた「未来ポスト」に恋人から17年後の自分に宛てた手紙が届く📮...。

 

これは、妻目線で読むと、、非常に居た堪れなく切ない。。宿泊先の妻の名を昔の彼女の名前に...。過去の恋人の思い出に耽り...。手紙も無造作に置かれ...。「決して妻が悪いわけではないけど、なんか違う」という理由だけで、この仕打ち。。男の人ってたまにものすごく鈍感。。でも女性は男性の弱い部分に寄り添いたくもなり、励ましたくもなる。。2人の女性に救われる男。。ささやかどころではない幸せ者。。

 

「母帰る」
30年以上連れ添った妻に熟年離婚された父。10年経ち、内縁の夫に先立たれた妻をもう一度、この家に迎え入れたいと言い出す父に姉と弟は反対。。

 

お父さんの愛情がとても伝わるお話で、子供たちにはわからない長年連れ添ったからこその夫婦愛を感じました。

 

 

父親と母親の子供への期待、心配事、価値観の違い。。子供の評価一つをとっても言葉のズレが生じる。。信頼、期待から外れた子供に裏切りを感じたり、大人になる娘への不安と焦りにより妻を非難したり。。父親像を大きく膨らませた父親の目線がいかに家族というものをうまく捉えていないかということがわかる。。不器用だけど愛情深い父であり、妻との噛み合わなさに苛立つ夫でもあり、老いた父を心配する息子でもあり、いつまでも奮起したい男でもあり、、と自分の居場所を探す中年男性の気持ちが詰まった一冊でした。