みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『あずかりやさん彼女の青い鳥』大山淳子

 

あずかりやさん  彼女の青い鳥

あずかりやさん 彼女の青い鳥

 

おすすめ ★★★★☆

「一日百円で、どんなものでも預かります」。とある商店街にひっそりと営業する「あずかりやさん」盲目の店主・桐島くんとお客様の心温まる物語。シリーズ第三弾。

 

「スーパーボール」の話が好き。
毎日100円ショップで3つまで買うルールを決めてる女性。。ある日、黄色いスーパーボールを手に取り、、思い切りぶつけたい衝動に駆られる笑。落としたスーパーボールの想像以上の跳ね返りに大慌て。。アワアワしながらレジで4つの商品購入。。マイルール違反に落ち込む女性。。さて?余分な品物をどうする?


後向きで不安感を抱く女性が、あずかりやさんに通う事で生き生きとしだし、閉ざされた過去と向き合い、明るい未来が目の前に広がるようなラストに心地良さを感じました。。とっても悲しい人生だからこそ、グッと来ました。。わたしもスーパーボールを思い切りぶつけて、予期せぬ動きを楽しみたいなぁ。。 

 

他にも友達を大切にするための物の扱い方など色々と大事なことを教わった気がする。。物たちから見える店内の様子や店主の表情、想い。。店内の物たち同士や店主との会話はもちろんないのだけど、それぞれがお互いをとても大事な存在と認めてる事が大いに伝わる。。桐島くんが物に愛情深く接しているからだと思う。毎回思うのだけど...読むたびに「物」を大切にしていきたい。。断捨離された物たちはどんな気持ちでいるんだろ。。無駄な買い物はしないようにしよう。。

 

シリーズ第一弾の感想はこちら↓

『あずかりやさん』大山 淳子 - みみの無趣味な故に・・・

シリーズ第二弾の感想はこちら↓

『あずかりやさん桐島くんの青春』大山淳子 - みみの無趣味な故に・・・

『田園発港行き自転車』 宮本 輝

 

田園発 港行き自転車 上 (集英社文庫)

田園発 港行き自転車 上 (集英社文庫)

 

 

田園発 港行き自転車 下 (集英社文庫)

田園発 港行き自転車 下 (集英社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

「私は自分のふるさとが好きだ。ふるさとは私の誇りだ。」から物語が始まる。。富山県下新井川郡入善町が美しく、素晴らしいことを送別会のお礼の挨拶で述べ、深夜バスでふるさとに帰る脇田千春。
15年前に宮崎に行っていたはずの父・賀川直樹が富山県の滑川駅改札口で急死。秘密を残したまま逝った父の足跡を辿る娘、絵本作家の賀川真帆。
絵本編集者・多美子。京都のお茶屋風バーを営む雪子。早逝した人気芸妓・ふみ弥。滑川の美容師・夏目海歩子と息子の佑樹。カガワサイクル元社長・平岩壮吉。。何の接点もなさそうな人々の小さな繋がりが大きな運命に。。

読んでずっと頭に浮かべてたのは...黒部川の広大の田園地帯、立山連峰、富山湾を自転車で駈け巡り、夜の愛本橋を眺めたい。。どうやら奇跡が起きればゴッホの「星月夜」のような風景が広がるそう。。見たい‼︎と...未踏の地・富山の風景を頭の中で何度も堪能しました。。自然の美しさ、豊かさ、厳しさの中で人々はもがき苦しみ、決断を下し、前進していく姿勢。。身ごもった妻のお腹には障害を持つ息子が。産むか産まぬかの選択に悩み苦しむ日吉の人間らしさに胸を打たれる。。

人の些細な優しさが他者には見えなくも運命を大きく変化させる事。。他者を近づけない鋭いオーラの平岩壮吉の人間の芯の部分を見抜き、底知れない優しさと器の大きさにグッときた。。

絡み合った人間模様でしたが、富山の風土にとても合ったお話でした。とにかく優しい。。人の縁って何事にも代え難いくらい素敵と思える。。


著者のあとがきで書かれていた「人間と風土がいかに密接に連関しあっているか」が納得しました。それが心にひしひしと感じるほど丁寧な富山の風景描写でした。。
ただ心残りが...後半畳み掛けるように終わってしまった「中年歩き隊」(千春の東京の元上司、同僚が富山を歩くイベント)と、、真帆の2度目の富山の旅。。プツンと糸が切れたような終わり方で残念。。もう少し読んでみたかったなぁ。。各々が思い描いた風景を脳裏に焼き付けた事を願い読了。。


見知らぬ土地の素晴らしさを文字を通して楽しめたのはとても良かった。。いつか行こう。。

『あずかりやさん桐島くんの青春』大山淳子

 

([お]15-2)あずかりやさん 桐島くんの青春 (ポプラ文庫)

([お]15-2)あずかりやさん 桐島くんの青春 (ポプラ文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

東京の下町にある商店街のはじでひっそりと営業する「あずかりや・さとう」。店を訪れる客たちは、さまざまな事情を抱えて品物をあずけにくる。どんなものでも一日百円。店主の桐島はなぜこんな奇妙な店を開いたのか?その理由は、桐島の青春時代に隠されていた―。

 

【感想】
「物」が語る物語。。今回の語り手は文机とオルゴール。。文机のユニークな持ち主との思い出やオルゴールのちょっと切ない歴史。。持ち主への想いがとても物哀しくて切なくなるけど...健気で愛らしい。。

 

最後のお話は桐島くんの青春時代。友達と見た「美しい色の海」。。ピアノの音色で呼び覚まされる目に焼き付いた数々の風景。。お母さんとの思い出。。物静かな桐島くんの意外な一面が見えて、面白かった。。学生らしい素敵な青春があって良かった良かった。。

 

前作の『あずかりやさん』の感想はコチラ↓

『あずかりやさん』大山 淳子 - みみの無趣味な故に・・・

『きらわれもののマルー』 絵 はらふう 作 はらひで

 

きらわれもののマルー

きらわれもののマルー

  • 作者: 絵はらふう 作はらひで
  • 出版社/メーカー: みらいパブリッシング
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

マルーは、笑うことしかできない。

人に迷惑をかけてばかり。みんなにきらわれてばかり。

そんなマルーを誰が創ったのか。

 

【感想】

Facebookで出会ったお友達の旦那様はらひでさんと大学で絵を学んでいるお嬢様はらふうさんによる「大人の絵本創作ユニット」。。前作(デビュー作)『おそろしくへんなローリー』は独特な雰囲気の絵と内容で惹きつけられました。さて、マルーはどうだろ?

1ページ目から衝撃走る。
「マルーは、何かのまちがい、不良品。できそこないの失敗作。人に迷惑をかけてばかり。みんなにきらわれてばかり。だってマルーはなにもできないから」

めくるのが怖いなぁ。。3ページ目まで読み、ズキズキ痛む。。でも...マルーは「やる気」と「燃える」に出会う。。動き始めた。。「やる気」と「燃える」がどんなものかを確かめたくて、どんなことが起きてもマルーは「不思議さ」を追いかけていくの。。追いかけられている「やる気」「燃える」はそんなマルーを気持ち悪く思ったり、バカにしたり。。きらわれてもマルーは笑うことしかできない。。ひどいことをされても笑うことしかできない。。マルーはほんとになにもできないの?笑うことができるし、追いかけることもできるし、好奇心もあり、深く考えることだってできる。。ただ、、伝えることができないだけ。。とっても簡単そうで、とっても難しいこと。。「ローリー」も「マルー」もわたしの中にいる。。だからかな。。やっぱりズキズキ痛む。。

マルーのすごいところ。。自分を素直に受け入れられるところ。。素晴らしい。。
背表紙の小さなマルーの後ろ姿。笑顔の裏には寂しさが感じられる。。でも好き。

読むたびに解釈が変わる大人の哲学絵本。
また読む時...どんな発見があるかな。。そんな楽しみ本です。

 

【おまけ】

余談ですが、数日前に真顔が自然と笑い顔の人の人生は得なのか?損なのか?と考えてました。得な気がするけど、、真顔必要な時もあるじゃない?多少損なのかなぁ?やっぱり幸せ度は高いのかなぁ?...なんてことをマルーを読んで再び疑問浮上。。どうでもいいことなんだけど、考えるのは自由だから笑

『箱庭図書館』 乙一

 

箱庭図書館 (集英社文庫)

箱庭図書館 (集英社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

「物語を紡ぐ町」がキャッチコピーの文善寺町で起こる不思議な物語。連作短編集です。

 

「小説家のつくり方」山里少年が小説家になった理由(切ない)
「コンビニ日和」コンビニ強盗と奇妙な共同作業をする店員二人組。(オチが笑)
「青春絶縁体」暗くてイタい文芸部員男女の不器用なやりとり。(青春だなぁ)
「ワンダーランド」少年が鍵を拾った。鍵に合う鍵穴を見つけるために町を探索。。とある住宅で...。(これは怖い)
「王国の旗」真夜中に集まる子供たちの王国(子供の思想は侮れない。。王国の鍵はもしかしたら...?)

 

わたしが一番好きなお話はラストの「ホワイト・ステップ」
文善寺町に珍しく大雪が降ったお正月。特に予定もない28歳大学院生・近藤。。母に新年の挨拶メール。。父の寝顔写真添付の返事が来て「いらんわ!」ってひとり叫んだり、、リア充な正月を過ごす友達に妬いたり、、アパート前で男女の雪だるま(ダル吉ダル子)を作り、ダル子を取り合ったりと、どうしようもなく過ごしていたら、、後ろから...きゅっ...きゅっ...雪を踏む足音が聞こえる。。姿形は見えないけど足跡が現れる。雪面に文字を書いて会話。。パラレルワールドの人間との遭遇だった。。

足跡と雪面の言葉を辿る不思議なお話。。雪が起こした奇跡の出会いで、静かで優しい世界に引き込まれる二人。。ホロリとする場面と運命の出会いも。。乙一さんらしく、じんわりと温かい余韻を残す。。こういうの好き。

 

どの話にもちょこっと登場する山里少年の姉でもあり、異常な本好きでもある図書館司書の「山里潮音」。。彼女の話は特にないけど、とても気になる存在。彼女の話を読んでみたいなぁ。

この表紙の幾何学的なデザイン、とてもシンプルでスタイリッシュ。だけど「図」の奥行きが複雑な人の心みたい。乙一さんの人物像は屈折してるけど純粋。。だから惹かれちゃう。。

この小説は読者から募集した投稿作品から乙一さんがリメイクする企画だそうです。

元ネタ↓

箱庭図書館 乙一|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー

乙一さん、すごいなぁ。。楽しかった〜😊📖🎶

『シャトゥーン ヒグマの森』 増田 俊也

 

シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

ヒグマパニックで放心状態。。
あまりの残酷な描写に気分が悪くなり、途中挫折してしまいましたが、、読み終えることができました。。過酷だったぁ。

 

北海道大学・天塩研究林。同僚の瀬戸と娘の美々(みみ)と一緒に動物学者仲間のいる北ノ沢小屋に辿り着いた薫。。そこに現れたのはシャトゥーンと呼ばれる冬眠に失敗し、雪の中を徘徊する穴持たずのヒグマ。過去に生態調査で捕獲した「ギンコ」だった。ツキノワグマの体重最大70キロに対し、ヒグマは350キロ。陸上最大の肉食獣。。極寒豪雪の地で生き残ることはできるのか?

 

過去の国内ヒグマ食害事件の概要が紹介されてました。。穴持たずのヒグマの凶暴性、執念深さ、頭脳明晰、身体能力の高さ、狙った獲物は食い尽くすまで諦めないと、、生態を知れば知るほど、、恐ろしい。。電話も車も食料もライフルも逃げ場もない恐怖と化した小屋(野生動物が生息してる森なのに、なぜこんなに無防備なのか?ちょっと疑問)で耐える人間の極限状態と執拗に繰り返す惨殺シーンが壮絶で生々しい。。生きたまま食べられる被害者の心理と熊の咀嚼音とか、美々が数回咥えられてたり(完全トラウマになるよ)。。恐怖と驚異の連続で心身衰弱してしまった。。自然と野生の前では人間なんて小さくて弱い生き物だと...痛感します。

 

もっと壮絶な予感がする吉村昭さんの『羆嵐』は読みたい本でしたが...しばらくヒグマから離れたい。。

『清須会議』 三谷 幸喜

 

清須会議

清須会議

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

信長亡きあと、清須城を舞台に、歴史を動かす心理戦が始まった。猪突猛進な柴田勝家、用意周到な羽柴秀吉。情と利の間で揺れる、丹波長秀、池田恒興ら武将たち。愛憎を抱え、陰でじっと見守る、お市、寧、松姫ら女たち。キャスティング・ボートを握るのは誰なのか? 五日間の攻防を「現代語訳」で綴る、笑いとドラマに満ちた傑作時代小説。

【感想】

織田信長の後継者と領地分配を決める会議。わたしは歴史が不得意なので、有名な武将たちが臨んだ大切な会議なんだろう程度の知識しか無い清須会議。。史実がどこまで本当なのかどうかは置いといて( っ'ω')っ⌒◦。

 

軽妙で面白い現代語訳のおかげで登場人物たちの人物像が色濃く植えつけられてしまった。。単純で思い込みの激しい柴田勝家(信長の宿老、一番苦手)。。魔性すぎるお市の方(信長の妹。将来の夫への心の声が面白すぎる)。。天下のためなら手段を選ばない羽柴秀吉(後の豊臣秀吉、天下取ったね)。。秀吉を操る黒田官兵衛(秀吉の参謀、一番怖い)。。計算高い松姫様(長男信忠の妻、この人の方が怖いかも)。。おバカで可愛らしい織田信雄(信長の次男、こんな扱いでいいの?)。。とにかく、面白かった😆