みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ベーシックインカムの祈り』 井上 真偽

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

「ふくくんはなおとさんがきらい」。園児の書いた文章を読んだエレナ先生は、その真の意味を分析して……(「言の葉の子ら」)。教授は私に問うた。なぜ、執筆している短編集のテーマに「ベーシックインカム」を選ばなかったのか、と。私は不審を抱いていたのだ。制度ではなく、教授に(表題作)。近未来に実現可能な技術を描きつつ、本格ミステリの醍醐味を存分に感じさせる全五編。

【感想】

テクノロジーが驚くほど進化をしていく世界。あらゆる未来を想定し、人間に心の準備をさせるのがSFの役割だと『三体』の劉慈欣さんは述べているとか。。(『三体』の続き読まないと)。。近い将来テクノロジーが現実に普及されたとき、社会に、人間にどう影響を与えるのか。

職場や家庭で共存するAI(人工知能)と人間の心の交差、遺伝子組換で作られた人間世界で起こる差別化、VR(仮想現実)に侵食されてしまう現実、人工再生医療で人間の器官強化(エンハンスメント)、ベーシックインカムの祈り...とテクノロジーの進化を遂げた近未来ミステリーです(帯では予言ミステリーと書いてありました)

コロナの時に一度だけ実行されたベーシックインカム制度すべての国民に無条件かつ定期的に必要最低限の現金を支給する所得補償制度。定額給付金の時にベーシックインカムという制度を知り、経済効果や雇用の在り方、国民のモラルなど興味があったので、タイトル買いをした本です。制度導入可能な未来が訪れるのか・・社会保障問題については、さておき...

どの物語も殺人や失踪、日常の謎などミステリーが盛り込まれているが、驚きの真相もすごいトリックも特にない。しかし読んでいくうち小さな違和感が生じる。ちょっともやもやっとする程度の。。その違和感の正体は、事件が近未来の常識の中で起こっているということ。発達されたテクノロジー世界の現実で巻き起こる事件。AIとの共存も、遺伝子組換も人間強化もされていない原種人間のわたしがこの本の読みどころを探るとしたら、違和感を掴んだとき。ちいさなとげのような違和感が取れた瞬間に小説の面白みがわかるんだと思う。

近い?遠い?将来にこの本を読んだら既に古いお話なのかもしれない。テクノロジーの急速な進化は人間にとって脅威となるか、希望となるか。。扱う人間のモラルも問われる。。わたしは人間がより人間らしく生きることをAIが教えてくれる..そんな未来を想像しちゃう。