みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『くるまの娘』 宇佐見 りん

 

くるまの娘

くるまの娘

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おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

17歳のかんこたち一家は、久しぶりの車中泊の旅をする。思い出の景色が、家族のままならなさの根源にあるものを引きずりだす。

【感想】

家族から「かんこ」と呼ばれているかなこは17歳の高校生。母は2年前に脳梗塞を患い、後遺症で笑うことができなくなり、泣いたりわめいたりするようになる。その後、突然体が思うようにならなくなったかんこ。父は怒鳴り、嫌気がさした兄は家を出て、弟は母方の祖父母の家に住む。離れ離れに暮らす家族に父方の祖母の危篤の知らせが。かんこ一家は久しぶりの車中泊の旅に...。今回もヒリヒリさせられた。胸が痛くなり、何度本を閉じた事か...。表現力が素晴らしく、音、匂いまでもが五感に染みわたり、田園や山間の風景を車中から一緒に眺めているかのように思える。柔らかな言葉を吸収するのはとても心地良いのだが、母の感情が抑えられなくなると一気に緊張感が走る。家族の怒り、嘆き、呆れ、悲しみ、虚しさ、諦め...負の感情たちが体全体を覆いかぶさってくるので、この家族の苦しみに押しつぶされそうになってくる。父の暴言、母の狂気から逃げた兄、心寄り添わせてもどうにもできない弟、見捨てる事ができないかんこ。子供たちはどんな親でも背負わなければいけないのか?親も子も傷ついている。傷をつけ合っていても、時間が経てば苦しみは溶けてしまい、曖昧とされていく。ままならなさや絶望をただ繰り返していく家族。著者の言葉の表現力にただただ圧倒され、その後に言葉が体に染み込んでくる。最後は感情が覆ってきて、揺さぶられていくのです。突き刺さる言葉の数々の一部を紹介します。

「(姉が)傷つけた記憶として残っていないことを弟はどう感じただろう。つらいのは、痛みでもなく、それに絡む恥でもなく、傷をあたえたと認められないことだ」

「あらゆる言葉を、力を、肌が吸う。肌になじまないことを言われる違和感だけが残り続け、正しい自省をしなかった」

人は傷つけてしまうことも、傷つけられてしまうこともある。父の家族に対する暴言や母の酒に酔った時の悪態はひどいのだが、かんこは親たちも傷つけられて生きてきたのだともがきながらも抱きしめていこうとする。生と死のギリギリを生きている人たち。家族という小さな世界をくるまという密室の中で引き出していく。。すごいなぁ。