おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
いじめが原因で不登校になる高校生・美緒の唯一の心のよりどころは、祖父母がくれた赤いホームスパンのショールだった。 ところが、このショールをめぐって、母と口論になり、少女は岩手県盛岡市の祖父の元へ家出をしてしまう。
美緒は、ホームスパンの職人である祖父とともに働くことで、職人たちの思いの尊さを知る。
一方、美緒が不在となった東京では、父と母の間にも離婚話が持ち上がり...。
壊れかけた家族は、もう一度、一つになれるか?羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布・ホームスパン」をめぐる親子三代の「心の糸」の物語。
【感想】
自分の気持ちをうまく伝えられない美緒。美緒の初宮参りのお祝いに祖父母が贈ってくれた赤いショール。苦しみが和らいでいく魔法の布を母親に強引に取り上げられ、家を飛び出した美緒はホームスパンの職人である祖父の元を訪れる。柔らかく優しく包み込み、すべてを受け止めてくれるショールのような祖父。祖父の仕事を手伝い、職人たちの丁寧な手仕事に触れ、ホームスパンの世界に惹かれていく。
リストラの危機に直面する父・広志は母の死を巡り、父と関係悪化。美緒の家出をきっかけに故郷に何度も足を運び、父、家族、仕事、自分と向き合い、父母の真の姿を見つめ直す。
娘に強くなってほしいと願う母・真紀は教師という仕事で苦悩し疲弊していく中、教育者として、母として、妻として、感情を家族にぶつけ、娘と夫との溝が深くなっていく。
娘の将来に悲観する母。美緒の祖母(真紀の母で元教師)の影響もかなり大きいです。「娘のため」「良かれと思って」が強すぎて子供を追い込む。客観的に読むと...とてもイタイ母親...と思うの。しかし他人事とは言えない。母親目線で読むと子供の気持ちが見えなくなる事は確かにあり、とても心苦しくなります。娘目線で読むと母の気持ちに応えようと思えば思うほど、「好き」という気持ちから離れていく。自分の「好き」を見失っていく。。どちらも痛いほど気持ちがわかるなぁ。。繊細な心が弱さではなく、強さにも変えられる力になると少しずつ前進する美緒と娘の成長を受容していく真紀の心の変化に温かい気持ちが広がりました。
ホームスパンの手織りの描写がとても良い。糸を紡ぐ光景が目の前で広がっているようです。丹念に手洗いをされた羊毛を染め、紡ぎ、織り上げていく丁寧な手作業。フワッフワと雲のような白い羊毛を包み、包まれたい。盛岡の風土も銀河鉄道もアイスコーヒーも...ホームスパンも、本を読むと行きたい場所が続々と増えるわ。。
赤いショールのような柔らかくて優しくて温かい家族の再生物語でした。