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【内容紹介】
高校二年生の越前亨(えちぜんとおる)は、感情の起伏が少なく、何に対しても誰に対しても思い入れを持つことがあまりない。父親を病気で亡くしてからはワーカホリックな母と二人で暮らしており、父親が残した本を一冊ずつ読み進めている。亨は、売れなかった作家で、最後まで家族に迷惑をかけながら死んだ父親のある言葉に、ずっと囚われている。
図書委員になった彼は、後輩の小崎優子(こさきゆこ)と出会う。彼女は毎日、屋上でくらげ乞いをしている。雨乞いのように両手を広げて空を仰いで、「くらげよ、降ってこい!」と叫んでいるのだ。いわゆる、不思議ちゃんである。
くらげを呼ぶために奮闘する彼女を冷めた目で見、距離を取りながら亨は日常を適当にこなす。八月のある日、亨は小崎が泣いているところを見かける。そしてその日の真夜中、クラゲが降った。逸る気持ちを抑えられず、亨は小崎のもとへ向かうが、小崎は「何の意味もなかった」と答える。納得できない亨だが、いつの間にか彼は、自分が小崎に対して興味を抱いていることに気づく。
【感想】
クラゲ乞いをする不思議ちゃんの小崎さん。学校の屋上で空に向かって「来い!クラゲ!降ってこい!」確かに不思議だ。怖いくらい不思議。その小崎さんを冷めた目で見つめる越前くん。作家である父を亡くし、父の本棚から一冊ずつ読み進めるが父の本は読むことをしない。父は家族に迷惑をかけた。その事に囚われ、無感情のまま読書を続ける中、小崎さんがクラゲを降らせた。
この物語は不思議なだけではなく、世の中の理不尽な事や家庭環境、友情など身近な困難に苦しみながら高校生活を送る生徒たちが世界をちょっとだけ変えたいと真剣にクラゲを降らせようとする少年少女たちの青春ストーリーなのです。
いつのまにかわたしも「降ってこい!」と心の中で願い続けた。途中までゆっくり読んでいたけど、残り数ページ、感情が揺さぶられ、気づけば涙を流しながら必死に文字を追っていた。
「無関心であることは人に優しくできないということ。自分勝手であることは感情の矛先を間違えるということ。優しさの本質は他者への興味だ」
友情を育みながら、父とのトラウマに向き合い、本当の優しさと出会う越前くんの成長物語でもある。
不思議だからと読まないのはもったいない。特に読書好きには楽しめる一冊。本を読む楽しさや大好きな作品をたくさんの人に読んでもらいたい図書委員の思いを込めたPOP製作、本を語り合う本好きたちに共感し、読んでいてワクワクしてくる。「嫌いなことは説明できるけど、好きって本能」...確かに。
本が好きな人も本を読まない人も、読んでほしい作品。空を見上げたくなる。わたしも時々クラゲを呼びたい。時代はクラゲだ!でもクラゲは水槽の中でゆらゆら浮遊していてほしいのが本音(*´艸`)
現役女子大学生のデビュー作!すごい。これからも読み続けたい(*^^*)