みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『蛍坂』 北森 鴻

 

螢坂 (講談社文庫)

螢坂 (講談社文庫)

 

 おすすめ ★★★★★

 

【内容紹介】

ほろ苦くて美味しい、だからこそせつないミステリー! ビア・バー「香菜里屋(かなりや)」シリーズ第3弾。「この街で、オレを待ってくれる人はもう誰もいない」戦場カメラマンを目指すため、恋人・奈津実と別れた螢坂。16年ぶりに戻ってきた有坂祐二は、その近くのビアバー「香菜里屋」に立ち寄ったことで、奈津実の秘められた思いを知ることになる。マスター・工藤が、客にまつわる謎を解き明かす。

 

【感想】

ビアバー「香菜里屋」ビールが進みそうなお料理に、ため息が出ちゃう。。カウンターの片隅でそっと常連客さんのお話を聞きながら、お酒とお料理を楽しみたい。。🍺☺️


5話の中で「孤拳」が一番心打たれた(ネタバレします。。ごめんなさい)
年の近い叔父・脩治を「脩兄ぃ」と慕う真澄。。脩兄ぃの話はいつも未知の世界に溢れてて、、心奪われる話ばかり。。真澄の祖父が愛飲している幻の焼酎「孤拳」。二人がこっそり飲んだ幼い思い出。。体が弱い脩兄ぃは入院をし、長い闘病生活へ。「孤拳を探してくれ」真澄は幻の焼酎を探し求め、、香菜里屋に行く。。幻の焼酎は幻。。探し求める意味。。死にゆく人の最後の願いは、、「忘れないでほしい」なんだと思うと、、とても感慨深いお話でした。

 

読後『花の下にて春死なむ』を再読。
香菜里屋のマスター・工藤哲也の謎が少し描かれる『桜宵』と本作を読むと、初めて読んだ感覚となんとなく印象が変わる。
常連さんが、顔馴染みのような親近感に包まれるシリーズ。。完結編が楽しみです。

『田舎の紳士服店のモデルの妻』 宮下 奈都

 

田舎の紳士服店のモデルの妻 (文春文庫)

田舎の紳士服店のモデルの妻 (文春文庫)

 

 おすすめ ★★★★☆

 

【内容紹介】

東京から夫の故郷に移り住むことになった梨々子。田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、恋に胸を騒がせ、変わってゆく子供たちの成長に驚き―三十歳から四十歳、「何者でもない」等身大の女性の十年間を二年刻みの定点観測のように丁寧に描き出す。じんわりと胸にしみてゆく、いとおしい「普通の私」の物語。

 

本交換会で、タイトルに惹かれ、手にした本。。想像以上に面白かった。。
一目惚れをし、スマートでカッコ良い光り輝く理想の男性との出会いから数年。。2人の子供たちと忙しい育児の日々を過ごす幸せな梨々子。。突然、うつ病を発症した夫の故郷に家族で暮らす事となる。
田舎暮らし0年目から10年の「普通の私」日記が始まる。。
東京での暮らしの優越感と安心感から一転して田舎暮らしの底知れぬ不安と焦り。。自分はここにふさわしい女ではない、夫はいつかまた光り輝く、田舎暮らしをして戦線離脱した人間と認めたくないもがきを見せる0年目。。地域にふれあい融けあいながら、子供たちの成長と変わりゆく夫との心のかけ違い、「自分」の存在価値への苦悩。。2年、4年、6年、8年、、と時が過ぎ、、10年目で人との交流を重ねていくにつれ、夫を、子供を、自分を受け入れて行く。。
梨々子が何度も頭に浮かべる「わたしはひとりだ」家族といるけど「孤独」と感じる。。この気持ちは、少なからず訪れる感情だと思います。。何のために生きてるのか。。日常が無意味に過ぎていく。。
「母」であり「妻」であり、、その前に「女」であった事を思い起こしては、現実との格差に悩むのもまさに「等身大」の女性の話なのかもしれない。。
「希望というなら希望。絶望というなら絶望だとも呼べる夫婦のこれからを心して、生きよう」と決めた瞬間。。梨々子の諦めと受け入れが始まる。。心のゆとりができ、、穏やかに家族の事を見つめていけるようになった梨々子。。昔と違う夫のたまに見える愛おしい姿を大事にする梨々子に、、エールを送りながら、、読んでました。。

梨々子の心の声は、、なかなか面白い笑笑。

筋トレと主婦業の比較はなるほど、、と思えた。

毎日の積み重ね、一回でも怠ると次への負担が重くなる。。だからといって大きな成果はない。

たしかに、、どちらも終わりのない事だけど、、心の変化はとても大きいと思う。

『リズム』 森 絵都

 

リズム (角川文庫)

リズム (角川文庫)

 

 おすすめ ★★★★☆

 

【内容紹介】

さゆきは中学1年生。近所に住むいとこの真ちゃんが、小さい頃から大好きだった。真ちゃんは高校には行かず、バイトをしながらロックバンドの活動に打ち込んでいる。金髪頭に眉をひそめる人もいるけれど、さゆきにとっては昔も今も変わらぬ存在だ。ある日さゆきは、真ちゃんの両親が離婚するかもしれないという話を耳にしてしまい…。

 

【感想】

カフェで泣きっぱなし。。隣の人が、、気にしてるのが、肌で感じる。。すいません。。でも、涙が止まらないの。。中1のさゆきの家族、友達、先生、、いとこの真ちゃん。。みんな、それぞれ悩みはあるけど、、誰かに救われてる。。

「自分のリズムを大切にしろよ」

 

『ラヴィアンローズ』  村山 由佳

 

La Vie en Rose ラヴィアンローズ

La Vie en Rose ラヴィアンローズ

 

 おすすめ ★★★☆☆

 

【内容紹介】

薔薇の咲き誇る家で妻思いの優しい夫・道彦と暮らし、予約のとれないフラワーアレンジメント教室の講師、カリスマ主婦として人気を集めている咲季子。平穏な毎日が続いていくはずだった。あの日、年下のデザイナー堂本と出会うまでは...

 

序盤に夫婦の暮らしが描かれていて、夫の言動、行動に「あれ?うちの事?」と思わず、ドキドキ。。そのうち、夫の妻に対する言動が高圧的となり(うちはここまでではないとなぜか安堵)、、我慢してる妻。。読んでて苦しみが広がる。。従順な妻と厳しい夫に対してモヤモヤは拭えない💭が、どうも話に入り込めない。。結論はわたしはこの妻にどうしても共感できない。。傷の付け方は夫の方があからさまかもしれないけど、、同様に(それ以上に)夫も傷つけられていると感じた。。...
(わたしには)何の魅力も感じない愛人・堂本との逢瀬も夫婦関係を言い訳にし、正論としてる部分も理解できず。。ただ夫の悪い部分だけしか見れない妻に(恋するとこうなっちゃうのかな?)、、モヤモヤが濃厚になっていく。。💭💭
中盤から自分の生き方を見つめ直した妻の頭には夫の存在が消えているのもどうなんだろ?むしろ邪魔者扱い。。高圧的だけど結構家庭的で、、愛情表現下手だけど妻思いの夫。。もう少し、妻の方から、寄り添ってあげるべきなのではないかと。。この妻の辿り着く先はどこなのか。。とても気になる読後感でした。。

『怖い絵3』 中野 京子

 

怖い絵3

怖い絵3

 

 おすすめ ★★★★☆

 

【内容紹介】

清楚でロマンチックな『ヴィーナスの誕生』…じつは、美神の憂いの陰には?神からの祝福を描いたミケランジェロの『聖家族』…聖ヨセフの抹殺された事実とは?伝説の薄幸の美少女『ベアトリーチェ・チェンチ』…しかし本当の悲劇とは?本物の恐怖が味わえる名画20

『怖い絵2』 中野 京子

 

怖い絵2

怖い絵2

 

 おすすめ ★★★★☆

 

『怖い絵1』と同様、政略結婚からの愛憎劇や画家の心情や個性が面白い。
ピカソの女性関係にため息ついちゃう。。「必要な時は有頂天になるまで崇め、不要になればボロ雑巾のごとく捨てる」怖いけど魅力的な男性なんだろうなぁ。...
シリーズによく出てくる処刑シーン。怖い絵展でも強烈な印象を与えるドラローシュの『レディ・ジェーン・グレイの処刑』王位継承に巻き込まれたジェーンの悲しい運命。。斬首の処刑人のプレッシャーと恐怖。。うまく切り落とせず長引く時の惨さがめちゃ痛い。。ジェーンの斬首は長引くことなく成功したようでそれだけが救い。
ミレーの『晩鐘』のダリの分析は個性的ですごいなぁ。。美しい農民夫婦の祈りから、性的表象を感じるダリの視点。。
王家の虐殺争いの顛末、歴史的背景に基づき描かれた時期によっては幸福から恐怖に一転していく絵など、、絵の中の細かい部分まで解説がされて、隠されたメッセージや心理学者や画家たちの分析などが紹介され、、絵画の楽しみ方がより一層面白くなるシリーズです。
『怖い絵展』が楽しみだぁ

『インターセックス』 帚木 蓬生

 

インターセックス (集英社文庫)

インターセックス (集英社文庫)

 

 おすすめ ★★★★★

 

【内容紹介】

「神の手」と評判の若き院長、岸川に請われてサンビーチ病院に転勤した秋野翔子。そこでは性同一障害者への性転換手術や、性染色体の異常で性器が男でも女でもない、“インターセックス”と呼ばれる人たちへの治療が行われていた。「人は男女である前に人間だ」と主張し、患者のために奔走する翔子。やがて彼女は岸川の周辺に奇妙な変死が続くことに気づき…。命の尊厳を問う、医学サスペンス。

 

【感想】

男でもあり女でもある両生具有。。存在は知ってたけど、、「インターセックス」という言葉は初めて知りました。。中間性を深く知り得る事ができた上に、生殖医療や臓器移植についても驚きの内容だった。
性差医療」についても興味深い。。医学においてのデータが男性基準になってる事には衝撃的。女性特有の医療法の確立、、心から願いたい。...


後半はミステリー要素が主となるが、医療の進歩や可能性に最後まで引き込まれた。ひとりひとりの体験、症状、心の葛藤、家族の苦悩が丁寧に描かれ、ドキュメントを読んでるようで心震える場面がしばしば。。マイノリティな部分って表立って出ないので、小説で患者の声が聞けたことは、とても良かったです。中間性でもそれぞれ違った症状で、100万人いれば100万通りの心の受け止め方があること。。自分を知ることの大事さ。。同じ人間である事を知るだけで心の負担が軽くなる、、この事をあたりまえに思っていた自分には衝撃的でした。

医学用語や最新医療など、難しい内容はあっても、「人間」の話なので、、心の受け止め方や前向きな気持ちの取り組み方など、自分に重ねることもあり、とても真摯な気持ちで読むことが出来ました。

「松の木でも色んな形があり、同じ形の木があれば、それは人間が勝手に手を加えたもの。違う形でも松の木である。。人間もそれでいい」この文になぜかわたしも救われた。