みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ニキ』 夏木 志朋

 

ニキ

ニキ

  • 作者:夏木志朋
  • 発売日: 2020/09/18
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

高校生・田井中広一は黙っていても、口を開いても、つねに人から馬鹿にされ、世界から浮き上がってしまう。そんな広一が「この人なら」と唯一、人間的な関心を寄せたのが美術教師の二木良平だった。穏やかな人気教師で通っていたが、それは表の顔。彼が自分以上に危険な人間であると確信する広一は、二木に近づき、脅し、とんでもない取引をもちかける――。嘘と誠実が崖っぷちで交錯し、追い詰めあうふたり。生徒と教師の悪戦苦闘をスリリングに描き、読後に爽やかな感動を呼ぶ青春小説。2019年ポプラ社小説新人賞受賞作。

【内容】

変わった子供だと言われ続け、前の学校では「宇宙人」と呼ばれ、転校先では普通に扱われるように「地球人」の特訓をしていた小学生時代。ある出来事から、特訓をやめ、「変」な自分を嫌いなまま、高校生に。そこで出会った美術教師・二木良平。普通の高校教師なのだが、実は成人向け雑誌の漫画家で、特殊な性癖の持ち主である。この事実を知った田井中くんは二木を脅迫し始める。。しかし、要求するものが見つからず...次第に、人間的に関心を寄せていた二木に認められたい気持ちが大きくなる。
二木から
「きみは僕に何を見せてくれるんだ?見せるものがないのに、認めてくれだなんて変な事を言うよな....きみは普通だ。たったひとつ、そんなとこだけ。」
苛立つ田井中くんが認めてもらうために選んだのは小説を書くこと。本と音楽と空想が趣味の田井中くん。。小さい頃から、物語を考え、書いては母親に読ませてきた。。執筆に没頭し、二木に書き上げた小説の感想を求める。好評価とダメ出しを受けるが、少し認められた事に嫌な気はしない。。しかし心晴れず鬱々した生活がまた続く...そんな時、なんと!田井中くんは新人賞に応募します!と勝手に学校で二木が公言してしまい、強制的に執筆活動をする田井中くん。「イタイ」高校生と「ヤバい」教師の攻防戦が繰り広げられる苦い青春小説なのです。

「普通の人間を装いたい」
そうすれば、自分のままでも、嫌な言葉から心を守れる。生きづらさを感じる高校生が出会った教師に「この人も普通じゃない。だから自分をわかってくれる」と関心を持つが、近寄る動機が不純で、とても屈折している。とても自己愛が強い。自己肯定感と自己否定感..どちらも強く持ち合わせてる主人公。
「自分は何か特別長けたことがあるはずだという漠然とした予感。自尊心からくる妄想だと自分がしてくる忠告」と、前進とブレーキを繰り返す。時折、衝動が抑えられず暴走をしてしまう。女性への恋心も自己否定をしてしまい、素直に受け止める事ができない。。

抑えられないほど強い欲望を持つ主人公と秘密を抱えて一生孤独に生きると覚悟した教師。

マイノリティだけではなくマジョリティも考えさせられます。ラストはスリリングな展開でハラハラしました(^_^;)
女性作家さんのデビュー作。なかなか踏み込んだ内容で驚きです。