おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
作家の夫に小説の題材にされ、書くことを通じて奪われ続けてきた主婦の琉生はある日、大量の植物の種を飲んで発芽、やがて家をのみ込む森と化し――夫婦の犠牲と呪いに立ち向かった傑作。
【感想】
小説家の夫・埜渡(のわたり)は妻・琉生(るい)をモデルにした赤裸々な恋愛小説で成功する。順調に作家生活を過ごしていたが、、突如、琉生が草木の種を食べ続け、発芽してしまう。。きっかけは夫の浮気への怒り。。みるみるうちに草木があふれ、森と変わり、広がり続ける。。
発芽し、ぐんぐん育ち森になる妻という設定には、正直笑ってしまった。。そんな奇行に及ぶ妻さえも創作意欲を膨らませた夫は小説化しちゃう。。植物になる妻と悲しむ夫の美しく終わる愛の物語。。夫目線で描かれる妻。。一見わがままな妻の行動と思われるが、、夫の無自覚な身勝手さと冷淡さに物言えぬ妻の悲劇が見える。。
埜渡は小説で、琉生を「涙」、愛人・夕湖を「木綿子」と名前を変える(愛人の本名に難癖をつけるのは、ひどいわ)
小説の登場人物の対象として、観察し、創作し、女性を変身させることに喜びを感じる。。相手の本質を受け入れるのではなく自分色に染めていく男性。。琉生は夫の思考のズレに悩み、苦しみ、もがくが賢い夫を説得する術もなく、限界値を超えて植物化。。思い悩み根付く妻の奇行も優しさ、慈愛に満ちた行動に思えてくるから不思議なものです。。
「男性目線と女性目線」の偏見がテーマ...かな?男性と女性の思考の相違がとてもわかりやすく描かれてた。。
「涙」が見せた美しい幻と現実の「琉生」との同一視のされ方(男性作家って女性へ過剰な幻想を抱いてるよね笑)。。書かれる妻の苦しみが読み手にまでは届かない。。これがもし逆だったら。。妻が書き、書かれる夫。。批判や心配の声が上がるかもしれない。。「女だから」という悪意のない偏見。。なるほど。ありえる。。
最終的には夫婦というより、男性作家、女性作家の性差への疑問に繋がり、、深い森を彷徨っていく感じ。。着地点が浮遊状態だったけど、、男女問わず読み手の固定概念、環境、気分によって、どんな作品も様々な印象をもち、影響を受け、価値観の変化をもたらすもの。。この本も一度読んだ限りでは語り尽くせない。。書かれた妻を思うと...得たもの、失ったものが大きそう。。緑の闇です。。