みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『田園発港行き自転車』 宮本 輝

 

田園発 港行き自転車 上 (集英社文庫)

田園発 港行き自転車 上 (集英社文庫)

 

 

田園発 港行き自転車 下 (集英社文庫)

田園発 港行き自転車 下 (集英社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

「私は自分のふるさとが好きだ。ふるさとは私の誇りだ。」から物語が始まる。。富山県下新井川郡入善町が美しく、素晴らしいことを送別会のお礼の挨拶で述べ、深夜バスでふるさとに帰る脇田千春。
15年前に宮崎に行っていたはずの父・賀川直樹が富山県の滑川駅改札口で急死。秘密を残したまま逝った父の足跡を辿る娘、絵本作家の賀川真帆。
絵本編集者・多美子。京都のお茶屋風バーを営む雪子。早逝した人気芸妓・ふみ弥。滑川の美容師・夏目海歩子と息子の佑樹。カガワサイクル元社長・平岩壮吉。。何の接点もなさそうな人々の小さな繋がりが大きな運命に。。

読んでずっと頭に浮かべてたのは...黒部川の広大の田園地帯、立山連峰、富山湾を自転車で駈け巡り、夜の愛本橋を眺めたい。。どうやら奇跡が起きればゴッホの「星月夜」のような風景が広がるそう。。見たい‼︎と...未踏の地・富山の風景を頭の中で何度も堪能しました。。自然の美しさ、豊かさ、厳しさの中で人々はもがき苦しみ、決断を下し、前進していく姿勢。。身ごもった妻のお腹には障害を持つ息子が。産むか産まぬかの選択に悩み苦しむ日吉の人間らしさに胸を打たれる。。

人の些細な優しさが他者には見えなくも運命を大きく変化させる事。。他者を近づけない鋭いオーラの平岩壮吉の人間の芯の部分を見抜き、底知れない優しさと器の大きさにグッときた。。

絡み合った人間模様でしたが、富山の風土にとても合ったお話でした。とにかく優しい。。人の縁って何事にも代え難いくらい素敵と思える。。


著者のあとがきで書かれていた「人間と風土がいかに密接に連関しあっているか」が納得しました。それが心にひしひしと感じるほど丁寧な富山の風景描写でした。。
ただ心残りが...後半畳み掛けるように終わってしまった「中年歩き隊」(千春の東京の元上司、同僚が富山を歩くイベント)と、、真帆の2度目の富山の旅。。プツンと糸が切れたような終わり方で残念。。もう少し読んでみたかったなぁ。。各々が思い描いた風景を脳裏に焼き付けた事を願い読了。。


見知らぬ土地の素晴らしさを文字を通して楽しめたのはとても良かった。。いつか行こう。。