おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う......。嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのための異様な風習"お船様"が招いた、悪夢のような災厄を描く、異色の長編小説。
【感想】
大晦日に読み終えたのですが、衝撃度強めだったので、言葉にするのに時間がかかりそう...と、レビューを書いてる途中で年を越しました。新年早々「極限の貧困」を語るのもどうかなって...今日まで寝かせてました。
主人公の伊作は9歳。孤立した貧しい村に両親と弟、妹と暮らしています。家族の為に父は年季奉公で身売りを。妻と伊作に子供たちを飢えさせるなと言い残し、3年間村を出て働きます。父との約束を胸に必死に働く母と伊作ですが、生活は苦しいばかり。伊作は村の繁栄の為に行う重要な役割を担うことになります。「お船様」を村に呼び寄せる「塩焼き」という仕事。お船様と呼ばれる座礁した船から積み荷を奪い取り、乗船している人間の命を奪うという恐ろしい風習。村全員が犯罪者ですが、罪の意識は全くありません。見つかれば極刑に値することなので、隠ぺいも村全員で協力し合うという団結力。狂気に満ちた村ですが、彼らにとって生きるための術。お船様のおかげで安寧な暮らしをする村だけど閉塞感が更に増し、物哀しさが漂う。富をもたらすお船様は幸せだけではなく災厄までも...。為す術がなく抗えない運命にただただ流されていく村。父の心情を想う伊作の悲しみに心痛いです。