おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して―。今はもういない者たちの一日一日が、こんなにもいとしい。驚きの手法で描かれる、小さな空間に流れた半世紀。優しく心を揺さぶる著者最高作。第五二回谷崎潤一郎賞受賞。
【感想】
メモ魔のわたしは、メモを取らずにはいられない小説でした。。変わった間取りの木造アパートの「五号室」に暮らす代々の住人たちの人物像。家具の配置やそれぞれの動線などちょこちょこメモを取ってしまう。。それもお楽しみの一つでした笑。
歳も性別も立場も違う人々が五号室を通して、リンクしていく感覚が面白かった。変わった間取りや不便なシンクに対する生活の知恵、聞こえる雨音に思い馳せること、テレビ番組、タクシー移動...など同じ事柄でも時代の移り変わりによってそれぞれの生活が変わっていく様も面白かった。前の住民の痕跡を引き継いで大切に使っていく所も微笑ましく思う。
一室の小さな日常の中に様々な人間ドラマが詰め込まれているのです。新しい命の誕生、恋人との別れと出会い、伴侶の死...。大事な時間と共に排水溝の汚れやタイル磨きとの苦闘も同じ人生の時間上にあること。。変わらない五号室なのに生活の速度が上がる。日々に追われて、余裕がないではなく、確かに生活の速度は毎年上がる。。実感してます。
そんなささやかな生活を必死に生きる人の姿が愛おしく感じられます。
生きていて「なにも起こらない」なんてことは、本当にない。
この一文に尽きる物語でした。