みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『何もかも憂鬱な夜に』  中村 文則

 

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

 

 おすすめ ★☆

 

内容(「BOOK」データベースより)

施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。

 

「生と死」に向き合い、揺れ動く刑務官。担当した囚人、自殺した友人、主人公が育った養護施設の施設長の言葉に心が貫かれていく。

「倫理や道徳から遠く離れれば、この世界は、まったく違うものとして、人間の前に現れる」(再犯した囚人)

「たとえばこんなノートを読んで、汚い、暗い、気持ち悪い、とだけ、そういう風にだけ、思う人がいるのだろうか。僕は、そういう人になりたい。本当に、本当に、そういう人になりたい」(自殺した友人のノート)

「現在というのは、どんな過去にも勝る...アメーバとお前を繋ぐ無数の生き物の連続は何億年の線という、途方もない奇跡の連続...全て、今のお前のためだけにあった、と考えていい」(施設長)

 

死刑に立ち会う刑務官の葛藤、恐怖は想像を遥かに超えるものだろう。死刑制度を考えると同時に「自分の命」も考えさせられる。。この世界に溢れたたくさんの素晴らしいもの見るために生きる者。その権利を奪われてしまった者。自ら放棄した者。。「生と死」の境を彷徨う人々の深淵の部分が描かれた作品でした。