みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『李王家の縁談』 林 真理子

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

いつの時代も、高貴な方々の結婚問題はむずかしい――
梨本宮伊都子妃は、娘・方子女王の結婚相手探しに奔走していた。なかなか身分の釣り合う婿が見つからないのだ……。方子女王が皇太子妃になる道が潰えた今、方子がみじめな思いをしないように、一刻も早く、良縁を見つけてやらなければならない。聡明で率直、そして行動力に溢れた伊都子妃は、誰も思いつかなかった方法で、娘の方子女王を〈皇太子妃〉にする道を見つけ出すが……。そのために乗り越えなければならない課題は、伊都子妃の想像を越えるものだった。
高貴なる人々が避けては通れない縁談を軸に繰り広げられる、ご成婚宮廷絵巻が幕を開けます。

【感想】

伊都子妃の筆マメには驚かされます。梨本宮伊都子妃が少女の頃から晩年まで77年間、書き続けた日記すべてが保管されていて、林真理子さんはこの日記から皇族の縁談をテーマに物語が書けると思い立ったそうです。執筆中に皇室行事に参加した林さんは天皇陛下から何を書かれているのかをご質問され、「梨本伊都子さんのことを書いています」とお答えしたら「史料が大変でしょうね」と仰られたというエピソードからもわかるように、膨大な日記(記録)が残されていたのでしょう。

佐賀藩主だった鍋島直大侯爵の次女・伊都子妃。聡明で美しい。18歳で梨本宮守正王と結婚し、皇族妃となります。伊都子妃は皇太子妃(昭和天皇の皇后)が長女の従姉妹に決まるという情報を聞き、長女が「選ばれなかった娘」になるのを避けるため皇太子妃発表前に!と結婚相手探しをします。長女の身分にふさわしいと選んだ結婚相手は日韓併合後、日本に留学し、陸軍の士官候補生である朝鮮の皇太子・李垠。日朝の関係性を融和するためとはいえ、他国との結婚を心配する身内や周囲の反感や長女の反発に怒りを覚える伊都子妃は「お国のため」と何度も言い聞かせ、難航しつつも無事結婚をさせる。お国と親が決めたことに、たいてい間違いはないと信じる伊都子妃は娘を思う親心と皇族の誇りが強く、負けず嫌いも相まって、次女にも..李垠の妹にも..間違いのない配偶者を探し、縁談に奮闘(生きがいにも感じられる)していくのです。とても気になったのが精神が不安定な垠の妹・徳恵(とけ)と華族出身の宗武志伯爵夫妻。ネットですが史実を少し読んでみました。なんとも辛い結婚生活...伊都子妃はこの結婚についてどう感じたか..気になる。

当時の皇族の縁談は身分相応、家柄を優先、健康状態も左右され、政治も絡み、自由恋愛はできず、もちろん自分の意思は通らない..大変!という印象が強いのですが、悲壮感はあまり感じられませんでした。さすがご自分のお立場を深く受け止めていらっしゃる皇族の女性たち。水面下で嫉妬はあるようですが、それ以上に皇族という特殊な立場の方々だけの苦労や喜びを共鳴し合い、一体感や信頼感を強く感じられました。皇族を守り、支えていく強い使命感も感じ入るのです。

戦争が始まり、世界の情勢が悪化するにつれ、娘の結婚や皇族の暮らしにも影響が..。敗戦後に皇族を離脱され一般市民となった伊都子妃は時代と共に変わりゆく皇族の結婚について日記に綴られています。色々な感情が入り混じる思いの丈が..(苦笑)

ほんとに高貴な方々の結婚はむずかしいですね。