みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『風よあらしよ』 村山 由佳

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

明治・大正を駆け抜けた、アナキストで婦人解放運動家の伊藤野枝。生涯で三人の男と〈結婚〉、七人の子を産み、関東大震災後に憲兵隊の甘粕正彦らの手により虐殺される――。その短くも熱情にあふれた人生が、野枝自身、そして二番目の夫でダダイストの辻潤、三番目の夫でかけがえのない同志・大杉栄、野枝を『青鞜』に招き入れた平塚らいてう、四角関係の果てに大杉を刺した神近市子らの眼差しを通して、鮮やかによみがえる。著者渾身の大作。

【感想】

28年という短い生涯を婦人解放に力を注ぎ、狂おしいほど男を愛し、熱く生き抜く激動の人生にただただ驚かされるばかりでした。とにかく行動力がすごい。福岡の小さな村で生まれ、貧しい家庭に育ち、弟や妹の面倒を見ながら読書と出会い、自由に憧れ、向学心が強く、進学を希望するが、家庭は貧困が増し、女性に学業は必要ないと言われる時代、進学困難な状況ですが野枝の粘り強さと言葉の力により、東京の女学校に無事進学。女学校でも野枝の勇ましさが発揮され、友情よりも学業に専念をし、成績優秀で優等生ではあるが、問題児でもある。教師や同級生は野枝の破天荒ぶりに翻弄され、呆れる人もいれば、魅了されていく人もいて、野枝の痛快さには目を引くのものがある。卒業後、レールの敷かれた女性の人生や世間の古い風潮に反発し、女性の自由と権利を主張し、人生を自分の力で変えていきます。

強い意志と妥協を決してせず、目的のための行動力と人を惹きつける文才も兼ね備え、自由奔放な野枝には憧れる部分もあるのだが、見方を変えると、無鉄砲でわがままで、深く考えずに行動し、人を振り回し、自分の欲望のために夫も子供も捨て、恋をすれば相手の家族を不幸にしてでも手に入れ、同志だ、使命だ、と、声を高々と上げ、欲望のまま突き進む自分勝手な女性像にも伺える。言い過ぎかな。いや言い足りないくらい笑。野枝がべた惚れした最後の夫・大杉栄の自由恋愛の研究は男の身勝手しかなく、修羅場となるのも時間の問題...自業自得な結末にダメ人間の烙印を押したいのだが、野心家と情熱家、カリスマ性には野枝が恋に落ちるのもわかる。嫉妬に駆られ、傷害事件を起こしてしまう神近市子さんはとても冷静で聡明で寛大な人柄、男社会でもスマートに生きて、かっこいい女性。野枝よりも好感が持てたのだが、恋に溺れると狂気と化すのか...まさに源氏物語の六条御息所のようだ。。愛する人との子供を育て、夫に懸命に尽くす野枝は次第に家庭に守られる安堵と幸福に満ち足りていき、反感を抱いていた家庭に落ち着く女性の気持ちを知り、不安に揺らいでいく。この気持ちに共感を持ちます。わたしは社会や家庭に守られた安心感に浸ってしまう人間なので、常に神経を尖らせる野枝の生活は心が消耗してしまう。野枝ほどの強い女性でも家族の身を案じ、不安に身を焦がすのだと思うと少しだけ身近に感じる思いでした。

村山さんの力強さや生き生きとした文章から野枝という女性に傾倒し、魅力を感じているのが手に取るようにわかる。最期の時まで自分の信念を貫いた野枝が最後に見た悲しみ...史実を知らずに読んだので、強い衝撃を覚えました。なんて過酷な時代を生きたのだろう。。大杉と野枝が掲げる理想にまだまだ程遠い現代を二人はあの世から憤りながら、イッヒッヒと高笑いをしていると思う。久しぶりに読み応えあり、力強さありの作品を読み、心地よい疲労感と達成感、満足感があった!Goodです。