みみの無趣味な故に・・・

読書、時々映画、絵画鑑賞の感想を書いてます。

『博士の愛した数式』 小川 洋子

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。

【感想】

シングルマザーで家政婦の私は老婦人(未亡人)から義弟の世話をしてほしいと依頼される。変わった老人は記憶を80分しか持てない元大学教授で数学学者。私は「博士」と呼び、記憶を失うごとに常に新しい家政婦として、身の回りの世話をする。私の息子を博士は「ルート」と名付け、とても可愛がる。博士とルートが育む友情を温かい気持ちで見守る私。博士から教わる数学の世界に魅了されていくうちに、博士の愛する数式と出会うのです。

博士と私...それぞれに因んだ数字が友愛数で結びつき、特別な共有を持つ博士との信頼関係を築いていきます。

博士とルート...老人と10歳の友情は微笑ましい。お互い、慈しみ合って、友愛を深めていく。博士の子供へ注ぐ愛の深さ、人間らしさが強く出ています。

博士と未亡人...物語では決して語られる事がない博士の愛が数式を通して語られているのです。忘れられない数式。この数式に込められた想いから、博士の秘めた愛の物語が色鮮やかに想像されるのです。なんて残酷で、なんて美しいのだろう。

博士と数学...圧倒的に心奪われるのは数学と文学。数学の崇高さ、秩序のある数字の美しさ、潔さ、詩の一節のような語らいに胸が高まり、博士の喜び、悲しみ、静けさ、深い愛に胸打たれ、何度も押し寄せる感動に...思わず泣いてしまいました。外で読んでいたので、隣の人に心配をされてしまったほど、感極まってしまった🥲

完全数、過剰数、不足数の説明を受けた「私」が、「それらは最早ただの数字ではなかった。人知れず18は過剰な荷物の重みに耐え、14は欠落した空白の前に、無言でただずんでいた」

数学の美の表現力に何度も惹きつけられてしまいます。美しい...静かに佇む数字の奥深さ...数学の矛盾なき調和、難解な定理でも、スッと入り込める小川洋子さんの文章力が素晴らしくて、感動です❣️

わたしが読んだ小川洋子さんの作品は「喪失」のテーマが多い。『密やかな結晶』は物の記憶を強制的に奪われ、次第に失っていく。消滅を認知する怖さ、かけがえのない物が失われていく悲しみ。博士の「記憶が80分しかもたない」。失う辛さを思うと胸が痛い。でも博士が決して忘れなかったものは「愛」でした。数学、ルート、かつての恋人、私...博士の優しくて、温かくて、ちょっと悲しみがある愛おしい日常にポロポロっと涙しました🥲泣いてばかり笑。