みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『八月の銀の雪』 伊与原 新

 

八月の銀の雪

八月の銀の雪

  • 作者:伊与原新
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容】

不愛想で手際が悪い―。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた驚きの真の姿。(『八月の銀の雪』)。子育てに自信をもてないシングルマザーが、博物館勤めの女性に聞いた深海の話。深い海の底で泳ぐ鯨に想いを馳せて…。(『海へ還る日』)。原発の下請け会社を辞め、心赴くまま一人旅をしていた辰朗は、茨城の海岸で凧揚げをする初老の男に出会う。男の父親が太平洋戦争で果たした役目とは。(『十万年の西風』)。科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。

【感想】

科学の知識が人生に悩む人々の心の変化をもたらす五つの短編集。

 

「八月の銀の雪」就活連敗中の大学生が見下していた手際の悪いコンビニ店員は地震を研究する留学生。彼女が語る「地球の内核」に感化され...。(グエンの語り部を増やしてほしい。銀色の森、銀の雪は想像すると幻想的だなぁ)

 

「海へ還る日」子育てに自信のないシングルマザーが子供と訪れた博物館で鯨の絵と出会う。生物画を描く女性とクジラを研究する博士が語る「深海の生物」に心が解かれ...。(子供の名前の話に感動。子育てに挫けそうになったら、思い出そう)

 

「アルノーと檸檬」夢を追い求め、故郷を離れたが夢破れ、不動産に勤務する青年。担当した居住者の家にいるハト問題。「伝書バト」に投影し...。(一番主人公に心を寄せて、ホロリとした話。苛々、鬱々、悶々が止まらない青年の母は心配と寂しさが募るだろうなぁ。母目線で(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`))

 

「玻璃を拾う」美しいアクセサリーの写真をSNSに載せ、苦情コメントを受けた投稿者がコメント主に会いにいく。その男性に見せられた「珪藻アート」に惹かれ...。(早速珪藻アートをググりました。顕微鏡の中で輝く微生物。ミクロの世界にこんなに美しくて、神秘的なアートがあるなんて...これは必見です!)

 

「十万年の西風」旅行先の途中で凧あげをしている男性から聞く「気象と戦争」で再起を...。(信じていた事や誇りを見失う時に、大空高くあがる凧を見ると、ふと足を止めたくなるね)

 

どの話も印象深く、『月まで三キロ』(←読書感想)と同様に今回も生き辛い人々が偶然出会った人物から自然科学の知識を学び、視野を広げ、光が差し込み、再生をしていく。。地球の内核、深海生物の未知なる頭脳、渡り鳥の帰巣能力、神秘的な珪藻アート、世界を揺るがす自然と兵器... 科学を丁寧に親しみやすく伝えてくれる理系の著者の知性と優しさに胸打たれる。。豊かで壮大な世界に夢中になる人がとても魅力的で、読み手の知的好奇心が向上されていく。特に悩みを抱える人間が自然科学の不思議な世界に通じ合うと、心奪われていく気持ちにとても共感します。計り知れない壮大な世界と小さな自分に共通項を見出せる瞬間...心浮き立つ。。幻想的で美しい科学の世界観が自然と人間ドラマに融合され、心の広がりを感じる心地よい短編集です。