みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『思いわずらうことなく愉しく生きよ』 江國 香織

 

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

犬山家の三姉妹、長女の麻子は結婚七年目。DVをめぐり複雑な夫婦関係にある。次女・治子は、仕事にも恋にも意志を貫く外資系企業のキャリア。余計な幻想を抱かない三女の育子は、友情と肉体が他者との接点。三人三様問題を抱えているものの、ともに育った家での時間と記憶は、彼女たちをのびやかにする―不穏な現実の底に湧きでるすこやかさの泉。

【感想】

犬山家家訓「思いわずらうことなく愉しく生きよ」。。両親から自由に、愛情深く育てられた三姉妹の物語。

長女・麻子(36歳)は夫からDVを受けながらも家が安住の地で、お互い必要不可欠な存在であると思い込み共依存状態。友や家族と距離を置き、心が不安定であることに目を向けず、子供じみた夫の愛を頑なに信じ、生活を守り続ける。次女・治子(34歳)は売れないスポーツライターと同棲。仕事第一主義のキャリアウーマン。恋愛依存で恋人を全身全霊で愛し、愛される。結婚に関心はなく、仕事と恋愛が充実していれば満足。欲望のまま生き、思考より行動が先に出るので、驚きの言動が多い。三女・育子(29歳)は家族を冷静に観察し、家族の事を思いやる優しい性格。日記は内省的で哲学的な内容を書き、熟考型。恋愛とは何か?の研究の一環で性は奔放。他者との繋がりは友情と肉体で結ばれると結論づけるドライな人間関係を築く。

この三姉妹は趣味思考や生活環境は違うが、共通点が多い。家族思い。姉妹に対しての愛情がとても深い。お酒好きで酒豪。悩みや体験を赤裸々に話す。男性からモテるのでトラブルが多い。お互いの信頼関係が強く、何より自己の信念が強い。とにかく強い女性たちなのです。この女性たちに太刀打ちできる男性はいないのではないか。。麻子の夫も強さに負けてしまったのではないか。暴力で強さを誇示する弱い心。DVの恐怖、緊張感は耐え難いものであるが、弱い夫の愛おしさに縛られ、追い込まれていく麻子が痛々しくなるのを、治子は憤り、育子は悲しむ。心配をさせないように懸命に明るく振る舞う麻子。破天荒さのある姉妹ではあるが、健気で愛おしい。

姉妹たちの絆が強い一方で、他者との絆はとても脆い。相手との濃密な時間を深く愛し、大切にするのだが、離れた時の気持ちの切れ方が潔い。冷淡とも言えるが、潔い。

「家族に愛されると、人は強くなるのね」という言葉通り、無条件に愛されることは人を強くする。その強さが決して健やかに生きられるというわけではない。

「外の普通の世界」を夢見る麻子は普通の世界は意外に快適ではないと気づき、恋愛依存の治子が求める永遠不変の存在は見つからず、自由奔放な育子はルールのある人生に惹かれる。強い信念は他者からすると異常な様に見えるが、本人にとっては真剣なのです。犬山家の家訓を全うしている三姉妹ではあるが、抱える問題は重かった。。姉妹を持たないわたしには彼女たちの領域の踏み込み方に驚かされた。姉妹特有の程よい距離感や良好な関係性がとても羨ましい。三姉妹のように、のびやかに生きたい。