みみの無趣味な故に・・・

読書、時々映画、絵画鑑賞の感想を書いてます。

『密やかな結晶』 小川 洋子

 

密やかな結晶 (講談社文庫)

密やかな結晶 (講談社文庫)

  • 作者:小川洋子
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。

【感想】

2020年英国ブッカー国際賞最終候補に残り、注目された作品。小川さんの言葉ひとつひとつが惹かれる💕

「この島から最初に消え去ったものは何だったのだろうと、時々わたしは考える」

この島に住んでいる限り、心の中のものを順番にひとつずつ、なくしていかなければならない。島の中のモノが消滅し、次第にモノの記憶が薄れ、いずれ失っていく。記憶を失わない人間も存在し、記憶を取り締まる秘密警察によって、強制連行される「記憶狩り」。。小説家の「わたし」は記憶の持ち主である編集者・R氏を守るために隠し部屋を作り、匿う。。記憶が失われ、心の空洞が広がる「わたし」と濃密な記憶を持ち続けるR氏との共同生活。緊迫感が増していく中、島ではいつもと変わりなく、何かが消滅していく。

一番印象的だったのは、大切な人の死に直面した「わたし」が得体の知れない不安に取りつかれる場面。死は時間の経過により、徐々に記憶が遠ざかり、貴重な記憶だけを残す。記憶の法則は変わらず、「消滅」も変わらず存在する。空洞だらけの衰弱した心で大切な人との記憶を覚えておくこと。。漠然とした不安の中、何度も何度も悲しみを繰り返す「わたし」。。とても切なくて、胸に詰まる。

「わたし」の小説。声を失ったタイピストの物語も閉ざされた世界で支配をされていく恐怖が描かれてる。小説が消滅された世界で「わたし」が時間をかけて書いた小説。こちらも引き込まれます。

 

あらゆる種類の消滅...かけがえのないものを無くし、記憶に空洞ができても穏やかに迎え入れる島の人々。記憶の消滅という異常な世界だけど、島民は空洞を抱えながら暮らす生活、記憶を支配され、自由を奪われ、静かに消滅していく世界が日常なのです。。失われた「モノ」たちは必要なものではないかもしれないが...失われたからこそ、とても儚い愛おしい存在となる。ラストは美しい消滅なのです。

現代の非常事態で失われた物や捨てられた物、物の進化など、気づかないうちに記憶から抹消された物があるかもしれない。記憶は薄れてしまったかもしれないけど、空洞ではなく、心の奥底にしまわれているのだと思いたい。