みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『フィンセント・ファン ・ゴッホの思い出』 ヨー・ファン・ゴッホ・ボンゲル

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

美術史上の巨匠を同時代の人物が描く、ハンディにして骨太の伝記シリーズ刊行開始。 第1作は、『ひまわり』など多くの傑作と数々の伝説を残した孤高の天才画家ファン・ゴッホ。 彼の画業と生活を支えた弟、画商テオの妻であるヨーが、義兄フィンセントのあまりにも人間的な生涯を描く。 『ひまわり』『自画像』『タンギー爺さん』など、代表作をオールカラーで多数掲載。

【感想】

数ヶ月かけて、絵を鑑賞しながら、じっくり読みました。

ゴッホの母・アンナはテオドルス・ファン・ゴッホと結婚し、幸せな生活を送ります。アンナは素晴らしい愛嬌を備え、愛情深い女性で夫、三人の息子に先立たれても、活力、気力を失うことなく、悲しみに耐え抜き、87歳まで健康的に送ることができたのです...強い!6人の子供に恵まれ、深い愛情を注ぎ、育て上げます。子供の頃から、気難しく、わがままなフィンセントには長男だからと甘やかしてしまうのです。。成長したフィンセントは感受性が過敏になり、職業を変えてもありあまる熱意が周囲には理解されず、扱いにくい人間となっていきます。父は諦め、母は嘆きながらもフィンセントの安穏を願い、力を尽くすも、親心子知らずなフィンセントは両親に怒りをぶつけてしまうのです。。母親の気持ちを考えると心苦しい。画家として生きる事に消極的なフィンセントと、兄の才能に誇りを持つ弟・テオ。テオの献身的な思いがフィンセントの生活を支えるのですが、関わり合う人たち全てに受け入れてもらえない兄を売り込むのがとても困難で、苦境に立たされる。フィンセントは才能があり、洗練され、優しく、穏やかであるが、利己的で情のかけらもなくなり、争いになってしまう。異なる二つの人格にフィンセント自身もでしょうが、テオや家族も翻弄されてしまうのです。苦悩、苦境、悲痛、悲観...壮絶な人生を歩むフィンセント。精神崩壊してしまうきっかけとなる失恋💔。想いを寄せる女性に告白し、婚約者がいると断られるが、婚約解消させようとあらゆる手を尽くす熱意...少々唖然。失敗に終わって安堵。。このありあまる情熱が創作意欲を突き動かしているのです。関わるには覚悟が必要なフィンセント。自死後、弟のテオも兄の元へ..。二人は麦畑に囲まれた小さな墓地に並んで眠るヽ(;▽;)ホロリ。

テオの妻・ヨーは生前、評価されなかったゴッホの作品と兄弟で交わした膨大な手紙のやりとりを不屈な精神で世に広めます。深い絆の兄弟と義妹の功績のおかげで波乱に満ちたゴッホの生涯と磁力の強さに惹きつけられてしまう作品の数々に触れる事ができたと思うと、、感慨深い一冊でした。

『熱風団地』 大沢 在昌

 

おすすめ ★★☆☆☆

【内容紹介】

“多国籍ニッポン”を生き抜く痛快バディ・ストーリー!

フリーの観光ガイド佐抜克郎は、外務省関係者から東南アジアの小国“ベサール”の王子を捜してほしいと依頼を受ける。軍事クーデターをきっかけに王族の一部が日本に逃れていたのだ。佐抜は“あがり症”だが、ベサール語という特技があった。相棒として紹介された元女子プロレスラーのヒナとともに、佐抜は王子の行方を求めて多国籍の外国人が暮らす「アジア団地」に足を踏み入れる。ベサールの民主化を警戒する外国勢力や日和見を決め込む外務省に翻弄されながらも、佐抜は大きな決断の舞台に近づいてゆく――。

【感想】

痛快に駆け抜ける読書をしたくて、手に取ったのですが、、、
外国人観光客をガイドするあがり症の佐抜くんは日本人だと緊張してうまく話せないのだが、外国人には不思議と流暢になるという特徴。。しかしバディの相手がベサール人の元女子プロレスラー、アジア団地に住む多国籍の人種、組織や反政府グループも外国人、もちろん王子はベサール人...なので、あがり症の要素があまり見受けられなくて、面白みも個性もない佐抜くん。あがり症にしなくても良かったのでは?と、疑問。
アジアを中心にした文化、言葉、宗教、習俗も異なる二千人以上の民衆が住むアジア団地は独自の規律を作り、日本ではあるが、もはや日本ではない。日本人が立ち入る事も難しい。屋台や店舗が立ち並び、生きる活気、エネルギーが満ち溢れていて、とても魅力的な場所であると、佐抜くんは大学の恩師・杉本教授にご教示されます...しかしアジア団地の魅力、熱気が伝わらなかった。情景はただ流されていき、文化や食事にも触れず、目的を遂行するだけのまっすぐな佐抜くん。食事は、いつも団地外のファミレス。団地内を全くガイドしてくれないの。
日本語と外国語が入り混じる会話。外国語は句読点なしのカタカナ表記をされているので、読みにくい。「トイレハハシゴヲアガッタサキニアル」...これが、スピード感をかなり落としてると思う。日本の外務省も焦ったい。日本の責任を負わない姿勢、上への判断を仰いでばかりと、お役所らしさはあるのですが、やりとりが長くて、少し飽きてしまう。

酷評ばかりですが、佐抜くんの相棒、元女子プロレスラー・ヒナは良かった。はっきりした性格で裏表がなく、母国に対する真摯な思いを持つ女性。強がりだけど、たまに見せる優しさ。とにかく強いので頼り甲斐がある。杉本教授も好き。ベサールの歴史に詳しい国際政治学者。影の協力者です。趣味は料理。独特な味覚の持ち主で、手料理はかなり個性的。美味しくないらしい。ヒナも変わった味覚の持ち主で教授の手料理は合うのではないか...と佐抜くんは今度食べさせてあげようと、時折思うのです。しかし、食べさせないまま、終わってしまった。数回「食べさせたい」思いが綴られてるのに...なぜ食べさせないの。。ヒナの食レポ...気になる笑。

人物の描写もアジアの雰囲気も薄く、ストーリーの展開も無理矢理引っ張っているだけで、退屈。だらけてしまい、緊張感も感じられなかったです。残念。

『御社のチャラ男』 絲山 秋子

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説。

【感想】

「当社のチャラ男」、「弊社のチャラ男」、「地獄のチャラ男」、「チャラ男のおもちゃ」...と陰で「チャラ男」と呼ばれる三芳道造部長(44歳)。。彼を取り巻く人々が語る会社とは?仕事とは?恋愛とは?人間とは?チャラ男とは?会社で働く人たちの現実を描いた連作短編集です。

一つの会社で働く年齢も性別も立場も性格も違う人々の主観で語られる話が、別の話では、他者の目を通して語られることによって生じる主観と客観の差異、閉鎖的な会社の体質への不満と諦め、共通の話題でもあるチャラ男が生み出す一体感、それぞれが担う役割など、読み進めるうちに社員たちの特徴や人間関係、社内の実態が浮かび上がってくる。女性たちの厳しい目で観察される職場に一定の確率で必ずいるチャラ男。「チャラ男の話はコピぺ(ネット情報の受け売り)、いい加減なのに上手に生きて、物事をほったらかしにしても平気、最も嫌がるのは無視されること」と、なかなか厳しい指摘。

男性社員が考察する「猿山理論」が興味深い。
男の猿山と女の猿山の行動の違い。男の猿山は才能、地位、稼ぎが圧倒的な力を持つ。山の地名度にこだわり、高い山にいることで強さを保てるが、山から離れると心身がとても弱くなる。女の猿山は低山で豊かで優しそうなのだが、複雑で危険。死ぬこともある。山から下りることに恐れがない。離れれば離れるほど強くなっていき、別の山に移住をすることもできる。険しく厳しい高山に住む女性もいて、男性は太刀打ちできず慄くばかり。チャラ男は違う。一つの山にしがみつかず、様々な山に放浪して生きていける者。自由で羨ましく妬ましい存在。なのでチャラ男には親友はいないとの理論でした。チャラ男本人はチャラいのを自覚していて、彼なりの役割を全うしていたり、時には潤滑油にもなるので、悪い人ではないのです。いい人でいる必要性の有無はともかく、人望が無さすぎなのは...どうなの笑

会社で働くことは一つの時代を生きることで、会社が破綻し、倒産しても誰でも人生は続いていく...「その後」への通過点。現代の会社員の苦悩や働き方を提起してるのかと思います。絲山さんの皮肉を含んだ言葉のセンスは、面白い❣️

『羊は安らかに草を食み』 宇佐美 まこと

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

認知症を患い、日ごと記憶が失われゆく老女には、それでも消せない “秘密の絆" があった。八十六年の人生を遡る最後の旅が、図らずも浮かび上がらせる壮絶な真実。

過去の断片が、まあさんを苦しめている。それまで理性で抑えつけていたものが溢れ出してきているのだ。彼女の心のつかえを取り除いてあげたい。アイと富士子は、二十年来の友人・益恵を “最後の旅" に連れ出すことにした。それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。大津、松山、五島列島...満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは? 旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、老女たちの運命は急転する。

【感想】

二十数年前に俳句教室で出会った益恵、アイ、富士子は少女のように名前で呼び合い、仲良く過ごしてきた。朗らかで和やかな老女たちの旅路には不安と期待が入り混じる。各地の風土や自然に触れ、懐かしの友との再会により、益恵の過去が少しずつ明らかにされていく。旅と交互に綴られる終戦後の満洲時代が過酷で壮絶。11歳の益恵は家族を失い、孤児として生き抜き、故郷に帰る為に闘った日々。飢え、病気、殺戮、綺麗事では生き延びることはできない。戦争の悲惨さが充分伝わる満洲時代だけでも、凄い物語なのに、帰国した益恵の人生も凄まじい。彼女が生涯抱えていた秘密に迫っていく頃には、アイと富士子と同様にグイグイと引き込まれていく。秘密を共に抱えていこうとする強い絆と老女たちの友情には驚きと感動を覚えます。少し笑いも(殺ったるわと意気込む老女たちの殺意には笑ったな)。。アイと富士子にとっても、人生の仕舞い方を見つける事ができた旅。刻々と不自由になっていく身体、失われていく記憶、子供たちとの距離感、かけがえのない友との残された時間、人生の整理の付け方、時間が指から溢れていく砂のように、あっという間に失われていく年齢。この貴重なひとときを笑い合いながら過ごせる友達がいるのは素晴らしい。記憶を失うってとても怖いようだけど、壮絶な過去は忘れて、楽しかった思い出や大切な人や友達を忘れずに柔らかい時間を過ごせていけるなら、幸せな事なんだと思う。人生の片付け時...その時に前を向いて生きる人々。「別れる事を悲しむより、出会った事を喜びましょう」って言葉に胸が熱くなり、じんわりと余韻が残る物語でした。

『今夜もカネで解決だ』 ジェーン・スー

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

稼いで、疲れて、使って、稼ぐ。
著者自身が「いったい幾ら使ったんだ。」と途方に暮れるほどのマッサージ遍歴と、 体を預ける一期一会のセラピストたちの心持ちや技術への感謝や敬意、 同じ働く女性としての共感がこめられた、現代社会を洞察する一冊。

女には痩せて見えねばならぬ日がある/魔法の言葉はホットストン/イケメンは苦手/まるで削りたてのパルミジャーノレッジャーノ/自腹だからこそ、ご褒美は耽美。/この同意書には同意できません……他。

【感想】

ストレス地獄に追い込まれていたわたしは、「わかる!そうそう!」と共感せざるを得ない一冊でした。。大量の付箋が心の悲鳴を物語ってます笑笑。。都会という戦場で働く女戦士でもあり、マッサージジャンキーでもあるジェーンさんが凝り固まった身体、ヒートアップした脳、働き過ぎた心の傷を癒すために都内近郊の様々なマッサージ店、あらゆるリラクゼーションを巡る体験記。。お店の雰囲気、施術者の技術、サービス、費用だけではなく、働く人々の気持ちや業界事情など、とても興味深く、ジェーンさんの小気味良い言葉選びも面白く、疲れ切ったわたしでも気軽に楽しめた。セルフケアやAIでは味わえない「人の手が持つ魅力」。わかる〜まな板の上の鯉状態でゴッドハンドに身を委ねたい。ヘッドスパ専門店に今すぐ行きたい。高級寝具に身を沈めたい...末期状態?

癒しを求め、お手軽マッサージ店からセレブ御用達高級サロンまでリラクゼーションの旅を彷徨うジェーンさんの究極の癒しは女友達。女を癒すのは女。やはりそうなのだよ。。振り返れば、女友達に救われる事が多い。わたしもいざというときのゴッドハンドを見つけて、おカネで解決しながら、女友達と楽しく、ゆるゆる過ごしたいなぁ〜(*˘︶˘人)♪

『水瓶』 川上 未映子

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

世界のすべてを見通した少女がその身を投じる、生涯でたった一度、そして無限に繰り返される精神と身体の大冒険。鎖骨の窪みの水瓶を捨てにいく少女を描いた長編詩(「水瓶」)

奔放にして豊潤、尖鋭にして濃密に広がる想像力が織りなす九編の詩的宇宙。

 

【感想】

川上未映子さんは今年の本屋大賞ノミネート作品『夏物語』を読んで、力強い言葉の数々に圧倒された事を覚えています。「詩的宇宙」に興味を惹かれ、手に取ってみました。一篇の長編詩を読み、宇宙を調べてみた「時間、空間内に秩序を持って存在することや、もの。秩序を持つ完結した世界体系」。。混沌とした言葉の紡ぎ方で完結した世界を表現しているのか、、、一日一遍、読みました。螺旋階段を下へ下へと深く歩き、立ち止まると、入口に戻りたいのか、出口を見つけたいのか、そもそもどちらも一つしかなかったような...混迷しながら、言葉を手繰り寄せていく。しかし、四編目の「いざ最低の方へ」を読む頃、川上さんの言葉の生み出す狂気が感覚的にリズムのように、感触を持ち、言葉、言葉、言葉の羅列に「そのこと、そのもの」を感じていくのです。これが詩的宇宙なのかも!という事を感覚を知るだけで、説明は全くできない。九編目「水瓶」のすべてのすべてを抱える少女がすべてを捨てに渋谷に出かける長編詩。どう?と問われても、「わからないなぁ」としか言えません。想像をするのではなく、感覚的に読むのです。。

『メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官』 川瀬 七緒

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

東京都西多摩で、男性のバラバラ死体が発見される。岩楯警部補は、山岳救助隊員の牛久とペアを組み捜査に加わった。捜査会議で、司法解剖医が出した死亡推定月日に、法医昆虫学者の赤堀が異を唱えるが否定される。他方、岩楯と牛久は仙谷村での聞き込みを始め、村で孤立する二つの世帯があることがわかる。息子に犯罪歴があるという中丸家と、父子家庭の一之瀬家だ。死後経過の謎と、村の怪しい住人たち。残りの遺体はどこに...。

【感想】

法医昆虫学捜査官シリーズ第四弾🐛🐛🐛🐛

本作は平和な村で起きる猟奇的な事件。移住してきた怪しい住人たちの陰湿な人間関係、憎悪、執念、悪意が満ちた上に、グロテスクな場面も...。

虫の生態、行動から事件の真相を読み解く法医昆虫学捜査官・赤堀涼子。高温多湿な山中、虫の声が至る所から聞こえてくる自然環境の中、小さな手がかりを見つける為に虫目線、時にはタヌキ目線で山や村を駆け回り、独自の見解を示していきます。正確な死亡推定月日を割り出し、バラバラ遺体の遺棄場所の特定。今回も大活躍♪

「ウジにだいぶ慣れてきた」と前作の感想(『水底の棘 法医昆虫学捜査官』 川瀬 七緒 - みみの無趣味な故に・・・)に書いていたわたしですが...慣れるわけがない。今回も強烈だったぁ。山の捜索中にハエにたかられたり、大量のウジが降ってきたり...ウジの雨...ハエの嵐...心の中で大絶叫。湧き上がる想像力をかき消したい。岩楯さんと牛久さん...大変ね。

虫の正確な生態のように、全くブレない赤堀さんが、かっこよくて、面白い。さすが、フラジョ!(←腐乱女子。赤堀さん命名..笑)

なんだかんだと次回も楽しみ。。わたしもフラジョ?笑