みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『コトリトマラズ』栗田 有起

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

勤務先の社長と密かに付きあう華。彼の妻の入院で、ふたりの関係は変化する。そんな華が思い起こすのは「母が死体にキスをした」遠い日の記憶。老いゆく母にも秘められた物語があったのかもしれない。揺れる心を細やかに描く恋愛小説。

【内容】

不倫相手は勤務先の社長、妻は専務。上司の夫と不倫。泥沼化しそうな不倫の物語ですが、道ならぬ恋に身を焦がす女心...会えない辛さに押しつぶされていく切なさ...愛する気持ちと罪悪感に自問自答を繰り返し、傷つき、真摯に向き合い、揺れ動く女性の心理が細やかに描かれてる。。夫の浮気と浮気相手に気づく妻が心身のバランスを崩すも、気丈にに振る舞う姿。。泥沼化よりも辛い。

専務を尊敬する親友・カヨがとても良い存在。不倫に苦しむ華を肯定も否定もせず、結婚観を交えて諭すシーンが良かった。

「関係はふたりだけで築きあげるものじゃない。ふたりを知ってるみんなで育んでいくものじゃないだろうか...(中略)...みんなから向けられた思いはその関係を育てる肥料になる。結婚ってそういうものじゃないかと...(中略)...今の状態(誰にも話せない関係)を続けてるということは、みんなでその関係を育めないということにほかならないのだよ。」

 

誰も傷つかない不倫はない。社長は妻も愛人も愛してるようで、自分を一番愛してる。。男はズルい。傷つくのは女ばかり。

冒頭の一文「母が死体にキスをした」の印象が強い割に母の過去の秘めた恋はサラリと描かれてました。不倫に揺れ動く女心の心理描写に圧倒してしまい、ちょっと疲れてしまった。でも他の作品も読んでみたい。

 

『龍神の雨』 道尾 秀介

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

添木田蓮と楓は事故で母を失い、継父と三人で暮らしている。溝田辰也と圭介の兄弟は、母に続いて父を亡くし、継母とささやかな生活を送る。蓮は継父の殺害計画を立てた。あの男は、妹を酷い目に合わせたから。――そして、死は訪れた。降り続く雨が、四人の運命を浸してゆく。彼らのもとに暖かな光が射す日は到来するのか? 

 

【感想】

事故で母を失い、継父と暮らす蓮と楓。妻を失った継父は酒に溺れ、兄妹に暴力を...ついに妹に...。妹を守りたい兄は殺意が芽生える。兄妹の悲しい展開にため息が出てしまう。。「どこまで行けば、自分は最悪にたどり着けるのだろう」と、蓮と楓は悪い方向へ...。

父が病死をし、継母と暮らす辰也と圭介。継母が実母を殺したのではないか?と疑う兄に不安を抱く弟。辰也の反抗的な態度に苦悩する継母を労わる圭介。圭介の心には大きな傷があり...光が射し込んで欲しいと願うけど、とてつもなく不穏な影が...。

四人を最悪な方向に導くかのように降り続く雨。あの時、雨が降らなければ...と、雨が四人の運命を浸してゆく。両親を失った10代の子供たち。血の繋がらない親との暮らしに複雑な心境を抱え、鬱々と生きる。辛い現実が悲しい先入観を作り出し、全てを狂わす。。思い込みって怖いわ。。真相に辿り着いても疑心を晴らすこともなく、なお厳しい選択を迫られる。不条理ではあるが、とても現実的な不確かさを残す結末に、読み手の決断も迫られていそうな感じ。。どうか雨が全てを流して、晴れやかな青空の下で生きて欲しいと願うばかり。

あとがきでは、道尾さんから直々に解説を依頼されたライターさんが作中に差し込まれるいくつかのラジオニュースを独自の分析で謎を解明してました。仮説だけど、雨が上がり、明るい光景が浮かんでくる。。

『ふたりぐらし』 桜木 紫乃

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

元映写技師の夫、信好。母親との確執を解消できないままの妻、紗弓。一緒に暮らすと決めたあの日から、少しずつ幸せに近づいていく。そう信じながら、ふたりは夫婦になった。ささやかな喜びも、小さな嘘も、嫉妬も、沈黙も、疑心も、愛も、死も。ふたりにはすべて、必要なことだった。

【感想】

元映写技師の信好は、映画関係の仕事をするが、収入は少なく、妻の紗弓が看護師として家計を支える。夫婦それぞれの視点から交互に日常が語られる10篇の連作短編集。

母の突然の死別、実家の処分、映画関連の仕事、家計を支える妻への配慮、義父母との微妙な距離感に悩む信好、母親との確執を抱えながらも実家や、夫とのささやかな暮らしを大切にする紗弓。。自分に照らし合わせながら読むと共感をする場面が多く、深部が小さく揺さぶられ、一編読むごとに、波紋が大きくなり、息苦しさもありました。
悪気なく、何でも口にする母親、その言葉に傷つく紗弓。娘を労り、妻への想いを語る父。これこそ、どこにでもある家族像なんだろうなぁ。。わたしも何度も味わった事があります。「母が嫌い」と口に出すが、「紗弓のお父さんとお母さんのこと好きだな」と投げかけられる夫の言葉に心弾む紗弓の気持ちもとてもわかる。
信好と紗弓だけではなく、それぞれの両親、近隣の老夫婦など、様々なふたりぐらしを通し、幸せとは?と考えさせられる。亡き夫の分まで食材を買っては腐らせてしまう信好の母、家庭持ちの男を狭い部屋に置かれたダブルベッドと共に待つひとり暮らしの女など、大人の物寂しさに身を焦がしてしまう。。桜木作品の薄暗い雰囲気...淡々とした言葉...突き刺す現実...妙に沁みる...やはり好きです。

夫や妻は「理想の人」?
恋愛時期は...と、遠い目(´-`)...結婚は夢や理想だけで、生活できない事は実感してる。喜びとやりきれなさの連続。小さな嘘、沈黙は時には必要です。日常を駆け巡る事で精一杯。ふたりぐらしの幸せのカタチを考える余裕もないですが...年を重ねて、どんな諍いも娯楽だったと思える人生は、幸せなんだろうなぁ。

「隣に紗弓がいるあいだ、自分は真のかなしみに出会わずに済む気がした。ふたりでいれば、親の死でさえ流れゆく景色になる....ひとりではうまく流れてゆけないから、ふたりになったのではないか」

幸せな「ふたりぐらし」の先にある「ひとりぐらし」を思うと...胸が張り裂ける想いにもなるのです。

『永遠の曠野 芙蓉千里Ⅲ』 須賀 しのぶ

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

第1次世界大戦の余波がつづく激動の時代。大陸はいまだ揺れに揺れていた。舞姫の地位を捨て胡子(馬賊)となったフミは、一味の頭領である楊建明のモンゴル独立にかける思いを知り、改めて、どこまでも彼についてゆく覚悟を決める。しかし建明の決意の奥底に、彼の亡き妻サラントヤの影を見てしまい…。しなやかにそして強かに、ひとつの時代を駆け抜けたフミが、最後にその手を掴んだものとは?

【感想】

シリーズ完結編。前作の感想はコチラ→『北の舞姫 芙蓉千里Ⅱ』 須賀 しのぶ - みみの無趣味な故に・・・

女衒に売られて、日本から中国大陸へやってきた辻芸人あがりのフミ。大陸一の女郎になる!と哈爾濱の遊郭で下働きを必死にし、女郎ではなく芸妓の道を選び、舞の修行に励み、浦塩で神降臨の舞を踊り、ついに伝説へ。。次は....馬賊に転身。。モンゴルの地を、最速の愛馬と共に颯爽と駆け抜ける...奇想天外な展開。。波乱に満ちた人生を選び、身一つで飛び込むのは、いかにもフミらしい。幸せをたくさん掴める環境に置かれながら、あえて苦境の道を辿るフミの強さには憧れる。何かを得ては、全てを失い、どん底まで堕ち、這い上がると、さらなる輝きを得る。。自分を支援し、愛してくれる黒谷、全てを失っても惹かれてしまう山村、ぶつかり合いながらも共鳴し合う馬賊の男たち。フミの心はかき乱されるが、自分の信じる道を生きる姿に誰もが惚れ込むのもわかる気がする。。女性として羨ましさは大いにあるけど、踏み込む勇気はない。。この捨て身の輝きがフミの最大の魅力だと思う。

ロシア、シベリア、モンゴルの覇権争いに絡む日本、中国などの戦略や歴史部分は困難でした(須賀さんの歴史はすごいね)。。民族や国の為に争う人々。「血と地で育まれた本質は変わらない」という言葉。故郷への思い、信念が強いあまり、争いは絶えず、無駄な血が流れる。。人間は血と地だけでつくられるものではない」と自由を求め続ける山村も素敵だった。最後までかっこよかった。

「何かを成し遂げようとするのなら、最後の瞬間まで月のように冷静でなければならない、理性と正確な情報が伴わない正義は、ただの暴力で終わる」
...身に沁みる。

大自然を駆け巡る雄大さ、疾走感は、このシリーズを物語っています。ラストの落ち着き方、収まり感には少し拍子抜けしましたが、スケールの大きさに圧巻でした❣️

『北の舞姫 芙蓉千里Ⅱ』 須賀 しのぶ

 

おすすめ

★★★★☆

【内容紹介】

哈爾濱の妓楼に入った少女フミは、天性の舞踊の才を開花させ、大陸一の芸妓を目指す。―それから9年の時が過ぎた。古巣の妓楼も今はなく、ロシア革命の嵐が吹き荒れ、時代が大きく動く狭間で、少女は大人の女になり、名妓・芙蓉の名も不動のものとなっていた。初恋のひと山村と別れ、パトロンの黒谷と家族のような愛を育んでいたフミだったが、おのれの舞を極めようとする強い心は、幸せを崩す奔流となって彼女を襲う。

【感想】

シリーズ第2弾です。前作の感想はコチラ→『芙蓉千里』

ハルビンの遊郭「酔芙蓉」が時代の流れにより、閉鎖。9年後、フミは西欧、中国、日本を融合させた独自の舞で人気の芸妓となる。ロシアの人気バレリーナ・エリアナの踊りに心酔し、刺激を受けたフミは舞の飛躍を求め、シベリアや、日本軍の慰問公演でウラジオストクと、舞修行で自らを追い込み、更なる情熱を注ぐ。ロシア革命の影響により各地では不穏な空気に包まれ、危機の連発...過酷過ぎる試練に耐え、修練し、舞の極致に達したフミは神をも魅了してしまう「鷺娘」を舞うのです。どこまで昇り詰めていくのかと思いきや、、次の舞台は恋?

フミの新たな大地への旅立ちに影響を及ぼしたのは、「酔芙蓉」で最後のお職となったタエの結婚なのかもしれない。ベルリンで子供を授かり、家族と幸せに暮らすタエの手紙を読み、心に棘がチクチク。恋人を選んだタエの決断を過去に果たせなかったフミ。黒谷さんとの穏やかな幸せは物足りなさは感じるが、平穏を与えてくれる。山村さんとの幸せは波乱万丈を孕みそう。ただ山村さんの再会場面がかっこいい。心焦がれるのもわかる。鷺娘のような悲恋ではなく、幸せを掴んでほしいけど...須賀さんのフミへの容赦ない波乱に、どうなることやらな思いです。

今回も政治や国際情勢を絡めた芸妓の物語でしたが、激動の時代を生きるフミの苦悩、葛藤、進化から伝説へと、スケールの大きさを感じます。。逞しさや強い意志、潔さは相変わらずかっこいい。フミを巡る男たちの恋模様も気になりますね。。続編はどんな波乱が巻き起こるのか・・ドキドキです。

『コタローは1人暮らし7』 津村 マミ

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

その1人暮らしの4歳児は ”大切な人”のために、強くなりたい。料理に洗濯、掃除からママ友の話し相手まで!? 同じ「アパートの清水」に住むちょっとダメな大人たちよりも 余程しっかりしている4歳児・コタロー。
そんな大人顔負けな姿の中に、ふと”子供”の顔が
垣間見え、少し寂しさを感じることもある… 。そんなコタローの愛しくも切ないアパートメントコメディ!

 

【感想】

「助けて」って言う事を学ぶコタローくん。大人になるとなかなか言えなくなるけど、言える事はカッコいいんだ!って。。頑張ってる人たちに伝えたいね。最新刊も、とっても切なくて、とっても愛らしくて、とっても優しくて、とっても温まる^ ^

 

6巻までの感想はコチラ↓

『コタローは1人暮らし1~3』

『コタローは1人暮らし4』

『コタローは1人暮らし5』

『コタローは1人暮らし6』

 

 

 

『コタローは1人暮らし6』 津村 マミ

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

1人暮らし訳あり4歳児は未来を信じている。

「アパートの清水」に大人たちに混じって住む訳あり4歳児・コタロー。 様々な過去を経てここ住むコタローは、家事を完璧にこなし日々を元気に生きている。 彼の希望は、再び“両親”と一緒に住むこと...。様々な感情が湧きおこるアパートメントコメディ!

 

【感想】

DVに苦しむ母親を守りたいコタローくん。力がない子供の自分を責めて、早く成長を望むかのように、大人になってしまう。。でも子供らしく甘えていいんだよと、コタローくんの周りはとても温かい。。母の死を知らず、いつか一緒に...。この気持ちだけでも切なくて胸が張り裂けそうになる。。

母をふとした事で、思い出す。。寂しさが一気に込み上げてきて、胸が痛み、息苦しくなる。。このくり返しを経て...思い出を懐かしむ事ができるんだろうなぁ。4歳でこの現実を受け止めるのは酷だよね。。

同じように苦しむ子供たち、生きて欲しい。