みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『水底の棘 法医昆虫学捜査官』 川瀬 七緒

 

水底の棘 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

水底の棘 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

  • 作者:川瀬七緒
  • 発売日: 2016/10/14
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

第一発見者は、法医昆虫学者の赤堀涼子本人。東京湾・荒川河口の中州で彼女が見つけた遺体は、虫や動物による損傷が激しく、身元特定は困難を極めた。絞殺後に川に捨てられたものと、解剖医と鑑識は推定。が、赤堀はまったく別の見解を打ち出した。岩楯警部補はじめ、捜査本部は被害者の所持品から、赤堀はウジと微物から、それぞれの捜査が開始された。岩楯たちの捜査と赤堀の推理、二つの交わるところに被害者の残像が見え隠れする。

【感想】

法医昆虫学捜査官シリーズ第三弾🐛🐛🐛
ウジにもだいぶ慣れてきたつもりでいても、想像を掻き立ててしまい、全身鳥肌が立つのが変わらず、。ゾワゾワしながら、気になる事件の行方を追いかけました。

第一発見者は、法医昆虫学者の赤堀涼子本人。東京湾・荒川河口の中州で彼女が見つけた遺体(←江戸区の河川敷。馴染みの場所なので、親近感♪)岩楯警部補はじめ、捜査本部は被害者の所持品から、赤堀はウジと微物から、それぞれの捜査が開始された。岩楯たちの捜査と赤堀の推理、二つの交わるところに被害者の残像が見え隠れする。

今回も定番?の遺体損傷が、今までにない激損傷で、身元判明が大困難なのです。身元不明が捜査を難航にしていくのです。特に警視庁の九条解剖医(身内が警視庁のお偉いさん)の死因鑑定に疑問を持つ赤堀さんが真相を解明していくのが、面白い。そしてカッコいい!

鳥肌立ちながら、健康意識をしながら(低血圧だけど)、また続編を楽しみます。

『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ

 

クララとお日さま

クララとお日さま

 

おすすめ ★★★★★

2021年発表の本書『クララとお日さま』は、6年ぶりの新作長篇でノーベル賞受賞第一作にあたる。

 

【感想】

語り手となるAF(Artificial Friend)と呼ばれる人工知能を持つ高性能AI・クララ。子どもたちの友達として開発された人工親友アンドロイドです。好奇心旺盛で、観察力に優れ、自然の世界や人間の心理、動きを観察し、心の成長をしていくクララを選んだ少女・ジョジー。クララの一人称で語られていくので、クララと共にジョジーを取り巻く環境を知るようになります。AIは労働をし、人間と共同生活をし、関係性を育み、人間や自身の心の動きを学んでいくこと。科学技術により遺伝子改編が可能となり、幼少期における教育の発達が向上させられる世界。裕福な家庭の子供は、より優れた能力を備えさせられることができ、高性能なAFを持つことができる。向上処置をしなかった子供の生活格差など、様々な未来のテーマがとても興味深く、倫理観も考えさせられ、時に残酷な決断に苦悩する場面など、AI視点なので断片的に説明される事でより想像し、考え、感情に訴えかけてきます。

特に魅力的なのがクララです。全てを観察し、吸収し、学習していく有能で愛情深いAI。栄養源である太陽光への強い想いがクララの原動力となり、太陽の恵みの奇跡を願うAIの不思議な心の揺らぎや純粋無垢の中に芽生える感情の成長。ゆっくりとわたしの心にも浸透していき、あたたまっていくのです。

 

少しネタバレをしますが、ラストのシーンで印象に残る場面。とある場所でクララがお世話になった店長さんと再会します。最新のAFではなかったクララを最高のAFと称えます。このシーンで家族と暮らすうちに人間として扱われていたクララはAIなのだと再認識しました。家族の望む事を全うしたクララの誇らしげな様子に、店長さんと同様にうれしくなる思いです。

 

科学技術の向上による子供たちの成長、AIに置き換えられてしまう労働、社会の場を失った人間の孤独を補うAIの存在、命に対する倫理観。。何事にも敏感になり絶望感に苦しむ人間と真摯に思考と向き合い心豊かに満ち溢れるAI。人の心とはどういうものか?未来の物語ではあるけど、現代にも通じる物語だと思います。自分に問いかけながら、深く考えることができた。。素晴らしかったです。

追記:ジョジーの母親の事はたくさんの思いがあるのだけれど、うまくまとまらない。クララに対する母の移り変わり。物から人間へ。娘とAI。向上処置の決断と責任。複雑すぎて。。再読した時に母に対しての感想を書いてみます。

『クラゲ・アイランドの夜明け』 渡辺 優

 

クラゲ・アイランドの夜明け

クラゲ・アイランドの夜明け

  • 作者:渡辺優
  • 発売日: 2020/12/22
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★☆☆☆☆

【内容紹介】

殺人、傷害、性犯罪、交通事故、違法薬物、違法労働、自殺者がゼロの海上コロニー―通称“楽園”。その七つのゼロをはじめて「自殺」で破った少女・ミサキ。ミサキの死に疑問を抱いた僕は、生前の彼女の行動を探りはじめる。そこには、七日前に現れた新種の人喰いクラゲの存在が?

【感想】

時は近未来。ドーム型でシステムにより管理化され、本土(日本)から抽選で選ばれた者たちだけが居住権を持ち、生活が保障された夢の島。楽園。そこに現れた美しい人喰いクラゲ。危険生物に興味を抱くクラゲ好きのミサキは、親友・ナツオの目の前で自殺を遂げた。興味をそそるミステリーのはずが...。

クラゲ好き...その理由だけで、読んでみた。そして途中挫折しました。。ふわふわと浮遊するクラゲのように、話の進行のゆらゆら感に酔いそうになる。それでも何とか読み終えた。
親友の死の真相、自殺を巡るコロニーの陰謀、人喰いクラゲの脅威、楽園の魅力、本土と楽園の対立、、と、興味深い近未来の世界が全て中途半端に描かれていて、もったいない気持ちが広がる。。特に楽園の魅力が感じられず、世間話が多い登場人物たちの退屈な会話に疲れ、全ての謎に興味が湧かなくなってしまった。ミステリーなのに、致命的な読書となってしまう…ε-(‐ω‐;)
親友・ナツオのぼんやりとした性格や口癖にいちいち引っかかってしまう。
「あ、そうですね」
「あ、わかりました」
「あ、えっと、」
「あ、はい」
「あ、」だけの時もある笑。
「あ、」始まりの意図は何?気になるわ。謎の解明をする大きな役割を担う人物なのに、クラゲのようにふわふわとした思考力で、話が進まない。。ラストまで何を伝えたかったのか?が読み取れず、最後まで消化不良が続き、辛かった。唯一面白かったのは、ミサキが命名した人喰いクラゲの名前。それくらいかな。。今年のワースト本になりそうです。

『正欲』 朝井 リョウ

 

正欲

正欲

 

 おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。

息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づいた女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、
ひどく不都合なものだった。

「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」

これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?

【感想】

朝井リョウさんの作品は、『少女は卒業しない』を読んだことがあります。『桐島、部活やめるってよ』の映画は観ました。1冊しか読んでいないのですが、多感な年代の人間関係や少女たちの微妙な感情を繊細に描き、言葉のセンスが上手だなぁという印象が残ってます。この作品は表紙とタイトル、評価がとても気になり、手に取ってみました。軽い気持ちで...。

感想...悩むなぁ。言いたいことあるかなぁ。いっぱいあるんだろうなぁ。いや、あるんだよ。熱量は高めだけど、言葉に表すことが全て陳腐な気がして、何を言っても、常識が覆されていくようで...。マイノリティ(もっと深い...狭い..マイノリティ)に目を向けながら、マジョリティの本質を突きつけさせられる。深く追及したくなる言葉の数々を振り返るけど、思考が先に進まない。

「この地球に留学しているみたい」という想像に及ばない気持ち...。常識、普通、正しさ...これって、一体何?って頭に巡り、着地点が定まらない。安穏な場所を求めてしまう事に疑問を持つことなんてなかったと思う。覚悟なく読んだのだけど、覚悟がいるのかもしれない。そういう意味では問題作なのか...な。

『ベルリンは晴れているか』 深緑 野分

 

ベルリンは晴れているか

ベルリンは晴れているか

  • 作者:深緑野分
  • 発売日: 2018/10/26
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

戦争が終わった。
瓦礫の街で彼女の目に映る空は何色か。

ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死んだ 。孤独な少女の旅路の果てに明かされる真実とは...。

1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4ヵ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり――ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。

【感想】

初めての深緑作品は本屋大賞ノミネートされた『この本を盗む者は』でした。ファンタジーが色濃く描かれた作品と違い、本作はドイツの第二次世界大戦時代の歴史ミステリー。戦災孤児のドイツ人少女が体験するナチス政権の戦前から戦後を描き切った作品。
暴徒化による人権差別、虐殺など、戦争の歴史は過去に読んだ本を通して、残酷さ、悲惨さ、理不尽さに胸を痛めながら、繰り返してはならないと、実感のない恐怖を抱いてきました。この作品は、他作品と違い、心の支配をされた国民の死の判断の狂いに怖さを感じました。死が隣り合わせの世界で綺麗事では生き抜けない現実を通過した敗戦国の戦後。。更なる過酷な現実を目の当たりにする苦しみ。。正義、信念、迷い、後悔...。どこから間違っていたのか?最初から間違っていたのか?今も間違ったまままなのか...。国民の壮絶な意識や葛藤を、強く投げかけられ、深く心を抉ってきます。
主な物語は、少女の恩人の不審死を巡るミステリーです。過去(戦前から戦中)と現在(戦後)が絡み合い、ラストの思いがけない真相に繋がっていきます。引き込まれました。戦争で隠された闇も震撼させられます。
この一文が頭から離れない。
「いつから狂ってしまったんだろう。人の死を願うことを、死の引導を渡すことを、躊躇なく正しいと思うようになったのだろう。狂ってるのは世界の方じゃないのか?...もうわからない」
「ただの人」も狂わされ、弱者を追い込み、罪を抱えさせられる。。こんな恐怖は決して味わいたくないな。。とても読み応えのある作品でした。

『さざなみのよる』 木皿 泉

 

さざなみのよる

さざなみのよる

  • 作者:泉, 木皿
  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

小国ナスミ、享年43。その死は湖に落ちた雫の波紋のように家族や友人、知人へと広がり――命のまばゆさを描く感動と祝福の物語!

【感想】

1話...ナスミ自身の死。2話から14話...ナスミの死を受け止める人々の生。死ではなく生を描いた物語でした。
人の死は衝撃的です。特に身内の死は衝撃を受け止める間も無く、日常に流されていく。後からさざなみのように動揺が押し寄せてくる家族の喪失感と日常、関わりのある人々の心の揺れ動きが見事に描かれていて、切なくもなり、温かくもなり、心の奥深くに、じわじわと染み込んでくる。。ナスミの優しさや何気ない言葉ひとつひとつが人々の生き方に影響を与える。生前だけでなく、死後にも...。ナスミの家族の未来の話が好き。

「やどっていたものが去ってゆく。それは、誰のせいでもないように思えた。ただやってきて、去ってゆく....図書館の本を借りて返すような...本は誰のものでもないはずなのに、読むと、その人だけのものになってしまう。いのちがやどる、とはそんな感じなのかなぁ」

生きるって時にはしんどい。みっともないことの連続(わたしはね笑)。。でもいのちを受け継ぎ、必死に生きて、いのちを引き渡す。そう思うと、がんばろうと思える。

最後に1話をもう一度読み返す。病床から見るナスミの風景がなんとも美しい。病室で夫が折り畳み式のお弁当をパタンパタンと音を立ててたたむ仕草。このささやかな光景がナスミにはキラキラと映る。このシーンから温かいものが伝わってくる。「ぽちゃん」...ナスミの波紋は大きく広がり続け、ゆらゆら動き、いつか静かに閉じていく。。わたしも誰かの記憶の中で小さな波紋のような存在になれたら、幸せだなぁ。

『コロナと潜水服』 奥田 英朗

 

コロナと潜水服

コロナと潜水服

  • 作者:奥田 英朗
  • 発売日: 2020/12/22
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

小さな救世主現る! 五歳の息子は、新型コロナウイルスが感知できる? パパの取った究極の対応策とは――「コロナと潜水服」(表題作)ほか全五編。コロナ禍の世界に贈る、愛と奇想の奥田マジックが光るファンタジー短編集。

【感想】

ついに「コロナ」というタイトルの本が...しかも奥田英朗さんの短編集。帯にはコロナ禍の世界に送る愛と奇想の奥田マジック。帯に騙されることは多々あるけど、これは期待が高まりますよ。

 

「海の家」妻の不倫発覚で家を出た小説家が、ひと夏、葉山の古民家で過ごす。ひとり暮らしを満喫する中、そこで出会ったのは...。(手の中で転がされている夫の最後の妻への小さな意地悪が可愛らしい。また浮気されそうだけど笑)

 

「ファイトクラブ」早期退職の勧告に応じず、追い出し部屋に追いやられた男性が、不慣れな仕事をこなす日々。追いやられた仲間たちと新たに始めたこととは...。(閑職につく哀れな中年サラリーマンたち。やりがいのない仕事だからといって退職するわけにはいかない。教育費、家のローン、親の介護費...みんな生活を抱えて生きているんだよ)

 

「占い師」人気プロ野球選手と付き合うフリー女性アナウンサー。恋愛相談に訪れた先でのアドバイスとは...。(堂々と玉の輿に乗る!と宣言する女性アナウンサー。占い師というより呪術師?この話は一番思い入れはないけど、この女性が...かなり怖いよ。)

 

「コロナと潜水服」五歳の息子には、新型コロナウイルスが感知できる?パパがとった究極の対応策とは...。(これはツボッた。笑いが止まらなった。感染したのでは?という不安から徹底した感染対策をする心配性のパパと冷静な妊娠中のママ。なぜ妻はこんなに冷静なんだ?とイライラする夫。。その理由がラストに判明します。小さな救世主にラストはさわやかな風が吹きました。これは暗いコロナ禍を明るくする素敵な家族愛です。傑作です~♪)

 

「パンダに乗って」

若い頃から欲しかった古いイタリア車(初代フィアット・パンダ)の納車の為、東京から新潟の中古車販売店に出向く。自宅へ戻ろうとするが、カーナビの不思議な案内が次々に起こり...。(一番好きです。新潟の町を巡りながら、愛車を大切にしていこうという気持ちが強く思えます。やさしい気持ちに包まれ、ラストにふさわしいお話でした。)

 

何気ない日常の中にオカルトのような出来事を織り交ぜ、ユーモア溢れるファンタジーですが、とても現実的な短編集。コロナを題材にした話は表題作だけですが、鬱々した世の中を笑いで吹き飛ばしてくれた。思いっきり笑わせてくれるなんて、、さすが奥田さんです。あまりにも声高々に大爆笑しているので、家族にドン引きされてしまいました。もし潜水服を着ている人がいても、中の人は至って真面目に感染対策をしているんだろうなぁって温かい目で見守ってしまいそう。。これは面白かった。