みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『JR上野駅公園口』 柳 美里

 

JR上野駅公園口 (河出文庫)

JR上野駅公園口 (河出文庫)

  • 作者:柳美里
  • 発売日: 2017/03/03
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのため、上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を―。構想から十二年、柳美里が福島県に生まれた一人の男の生涯を通じて“日本”を描く、新境地!

【感想】

主人公は福島県相馬郡出身。1933年生まれ。両親、弟妹を養うために12歳の頃から様々な出稼ぎをします。結婚後も出稼ぎを続け、妻と二人の子を養います。1963年、翌年の東京オリンピック開催に向け、賑わう東京へ出稼ぎに。家族と過ごす時間はわずかではあったが、不満を感じる事なく働き続ける男の元に届いた一人息子の突然の訃報。家族を亡くし、後悔に苛まれ、不運に絶望し、ただ生きるだけの人生を選ぶ。生き彷徨うために降り立った上野駅。ホームレスとなってただ生きるのです。

主人公の男は現上皇陛下と同じ年に生まれました。息子は皇太子殿下(令和天皇)と同じ日に生まれ、殿下の名前の一文字を付け「浩一」と名付けます。男の振り返る半生の中で天皇御一家に強い意識を持つことがわかります。
この本でホームレスの「山狩り」(特別清掃)という言葉を初めて知りました。天皇陛下が上野公園に行幸(外出)される数日前にブルーシートで作られたホームレスの住まい(コヤ)を撤去し、指定の場所に一時的に移動するようにと、、警察から各コヤに張り紙をされるのです。天皇家の目に入らないようにする配慮なのでしょうが、まさに日本の光と闇が存在しています。。貧困に苦しみ、家族を失い、「運がなかった」と絶望の淵を彷徨う男。自分の心の中に根強く存在する天皇陛下の目に触れられない存在。天皇陛下は眩しい光となり、男の背中をそっと押します。。闇の中で照らされる光の輝きが強過ぎると生き方を見失ってしまうのかもしれない。。同じ年月を生きたそれぞれの男の人生の対比。。冒頭からやるせなく、ラストまで切ないです。