みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『オリゴ・モリソヴナの反語法』 米原 万里

 

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

  • 作者:米原万里
  • 発売日: 2015/01/09
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

ロシア語通訳の第一人者としても、またエッセイストとしても活躍している米原万里がはじめて書いた長編小説である。第13回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した。

1960年、チェコのプラハ・ソビエト学校に入った志摩は、舞踊教師オリガ・モリソヴナに魅了された。老女だが踊りは天才的。彼女が濁声で「美の極致!」と叫んだら、それは強烈な罵倒。だが、その行動には謎も多かった。あれから30数年、翻訳者となった志摩はモスクワに赴きオリガの半生を辿る。苛酷なスターリン時代を、伝説の踊子はどう生き抜いたのか。

【感想】

読むのにとても時間がかかりました。。ロシアの人名が頭に入りにくい。登場人物はそんなに多くないのだけど、同一人物が事情により、複数の名前を持つ事や愛称?が飛び交うと混乱が巻き起こる。。挫折するかも....と不安と困難を乗り越え(←覚えが悪いだけ)、最後まで読んだ感想は..「読んでよかった」の一言に尽きます。

 

1960年代のチェコ、プラハ。日本人留学生の弘世志摩(通称シーマチカ)が通うソビエトの小学校の舞踊教師オリガ・モリソヴナは、その卓越した舞踊技術だけでなく、どぎつい罵り言葉で生徒に叱咤する「反語法」と呼ばれる独特の言葉遣いで学校内で人気者だった。そしてオリガと仲良しのフランス語教師エレオノーラ・ミハイロヴナは古風で美しい言葉遣いと貴族のような上品な立ち振る舞いで生徒たちから注目の的に...。オリガを慕う志摩はやがて彼女の過去には深い謎が秘められているらしいと気づく。

翻訳者となった志摩が1992年ソ連崩壊直後のモスクワで、かつての同級生エカテリーナ・ザペワーロワ(通称カーチャ)と再会し、劇場ダンサー・ナターシャとオリガの謎を解くために過去を探っていく...。ソ連の悪しき時代の犠牲者となる民衆の悲劇。スパイ疑惑のある夫を持つ妻たちの強制収容所での過酷労働。強制収容所にいた女性の手記は残酷な運命の数々が記されていますが、朗読や歌で癒され、お互いを励まし合い、自由なき時代で希望を捨てずに生きる姿に女性の真の強さが伺えます。。スターリン時代からフルシチョフ時代、、ソ連崩壊、現代の荒廃したロシアまでの歴史が描かれています。暗黒な時代に翻弄される中、シーマチカの生き生きとした子供時代が物語に彩りを与えてくれます。。オリガたちは子供たちとの平和な世界を守りたいと願っていたはず。

通訳や言語のエッセイを綴る米原さんらしい小説。エッセイでも書かれていますが、ロシア語は世界一罵詈雑言が多い言語だそうです。オリガの罵詈雑言は書くことが躊躇われる程、下品です笑。しかし、夢を諦め、命がいつ果てるかもわからない過酷な状況でも生き甲斐を持ち、仲間を守り、明るく前向きに生き抜く姿が凛々しく、逞しく、美しい。オリガが収容所生活を終え、チェコでの新たな生活を始めた時、複数の鏡を貼り付けた部屋で泣きながら踊ったシーンに涙しました。悔しかっただろうなぁ。。容姿も踊りの技術も衰えて嘆くオリガの再起する瞬間に力の漲りを感じます。

スターリンの恐怖政治を体験した人々たちの波瀾万丈に挫折するかもしれないという気持ちは全く払拭され、いつのまにか物語に引き込まれていました。師走に今年のマイベスト上位本が舞い込んできたよ❣️