みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『熱源』 川越 宗一

 

【第162回 直木賞受賞作】熱源

【第162回 直木賞受賞作】熱源

  • 作者:川越 宗一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。 日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。 文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、 国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。 金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、 読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

【感想】

北海道、サハリン、ロシア、ポーランドに生を受ける人々の波乱な時代を生き抜く物語。アイデンティティを深く強く美しく守り継ぎ誇りに満ちてる。凍原の世界でアイヌやアイヌを愛した人々の硬質な熱に静かに心揺るがされました。。

樺太生まれのアイヌ・ヤヨマネクフは天然痘やコレラの流行で亡くなった妻の「故郷に帰りたい」という願いを叶えるため幼い息子を連れ、山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志し、アイヌの誇りを胸に生き残りの可能性に力を注ぐ。一方、ポーランドで革命に巻き込まれ、サハリンに流刑し、厳しい罰を受け、生きる希望を失った囚人・ピウスツキの熱を呼び起こしてくれたのが自然な環境に適応しながら生き抜く原住民のささやな暮らし。民族と関わり、言葉、習性を学び、心豊かな生活に感銘を受けつつ、教育不足により理不尽な法の支配には敵わず生活を脅かされる現実と無念さを知る。。ヤヨマネクフと出会い、アイヌの子供たちに学びの場を設けるために働き、母国ポーランドの独立に力を注ぐ。

生を受け、環境に順応しながら生きていくことに長けている民族たちの無知の恐怖と無知の純真。文明の進化、制度、法律は知識がない民族にとって武力のように恐怖を落とす。。病気、戦争、自然に生命を失う危機に局面しつつ、生き続ける儚い人間たちの力強い生命は尊い。

一番脆くて弱い人間。。人が始めた争いは人だからこそ終わらせる事ができる。。全てを奪い焼き尽くす強大な国力に何度も強く鮮やかに立ち向かう「熱」が次の世代に受け継がれ、現代のクールジャパンに続くと思うと、胸に熱が帯びる。「生きていいはず」が心に染みる。