みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『神様のカルテ』夏川 草介

 

神様のカルテ (小学館文庫)

神様のカルテ (小学館文庫)

  • 作者:夏川 草介
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/06/07
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

栗原一止は信州の小さな病院で働く、悲しむことが苦手な内科医である。ここでは常に医師が不足している。 専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を三日取れないことも日常茶飯事だ。 そんな栗原に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。 だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。 悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。

【感想】

医療小説といえば...高度な最新医療現場でも地域医療でも病と闘う患者と医師の厳しい現実に心揺さぶられる人間ドラマがあり、非常に脳に刺激を与えられ、疲れることもある。。この本も寝る間もなく多忙な内科医が終末を迎える癌末期患者とどう向き合い、医師とは?正しい医療とは?と苦悩する物語である。人の生死が関わる重いテーマなのに...この心地良さは一体なんなんだろう?読みながら紐解くと...

「24時間、365日対応」の看板を掲げてる本庄病院。忙しさが尋常ではない現場に重傷患者を舞い込む「引きの栗原」と呼ばれる医師・栗原一止。夏目漱石を愛読し、文豪口調、看護師からは変人扱い。ものすごく愛妻家。栗原先生がこよなく愛する山岳写真家の妻・ハルと暮らす「御嶽荘」の住人たちも不器用で強烈で奇抜なキャラ。彼らのユーモアと優しさには心打たれる。。慌しい現場と個性豊かな登場人物の中、とっても心和ませてくれるのが、、患者たちなのです。明るい寝たきりの高齢者たち、言うことを聞かないアル中患者たち、誰よりも人に気遣う終末患者たち。彼らの存在がとても大きい。緊迫する場面は多々ある。苦しみもある。真摯に向き合う医師たちの癒しの存在にもなっている患者たち。。彼らの苦しみを少しでも和らげたい医療現場の優しい空気がとてつもなく心地良い。

長野松本平の澄んだ情景もいい。闇夜を埋め尽くす満点の星空。静かに降り積もる雪。赤い灯籠が浮かぶ神社。緊張から解き放される空間が目に浮かぶ。

「病むというのは、とても孤独なことなのだ。」

その孤独を取り払ってくれる温かい雨を降らす栗原先生にわたしも巡り会いたい。