おすすめ ★★★★★
【内容紹介】
「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。
【感想】
2019年のマイベスト1かもしれない(まだ数週間あるので暫定1位)
小川作品の中ではマイベスト1です!
素晴らしかった!
海の底のように深く美しく悲しく静謐なチェスを奏でる盤下の詩人。。リトル・アリョーヒンの生涯。
唇が閉じたまま生まれた少年。手術で口を開き、唇に脛の皮膚を移植したせいで、唇に産毛が生える。そのコンプレックスから少年は寡黙で孤独であった。少年が好きだったデパートの屋上の象・インディラは、大きく成長したため屋上から降りられぬまま生を終える。近所の壁の隙間に入り込んでしまった女の子がミイラとなって今も壁の中にいるという噂が流れる。寡黙な少年の友達はインディラとミイラだけだった。二人がいれば幸せだった少年がふと訪れた廃バス。廃バスの中で猫を抱いて暮らす肥満の男との出会いが少年のチェスとの出会いだった。「マスター」と呼び、少年はチェスを学ぶ。マスターの口癖「慌てるな、坊や」この言葉を幾度となく少年は心に刻むことになる。後に太り続けるマスターはバスから出られず、生涯を終える。棋譜(ゲームの記録紙)を辿り、駒たちの動きで優雅さ、俊敏さ、華麗さ、狡猾さ、大らかさ、荘厳さ、ありのままに味わうことができると教えられる少年が心奪われる棋譜と出会う。
チェスグランドマスターのアレクサンドル・アリョーヒンは「盤上の詩人」という称号を与えられた伝説のプレーヤー。棋譜で描かれる美しい詩。対戦相手と奏でる音、言葉のない優美な対話を楽しむ。
少年は新たな出会いをする。からくり人形「リトル・アリョーヒン」チェス盤の下で小さな体を丸め、人形を操り、チェスを指すようになる。いつしか「盤下の詩人」と呼ばれ、奇跡のような棋譜を生み出す。
「勝って当然の一局をありのままに勝つことは簡単ではない」
棋譜の美しさにこだわる棋士。どんな対戦相手でもチェスの奏でる詩を美しく描く。
「最強ではなく、最善の道を指し示す」
閉じ込められた者たちを愛したリトル・アリョーヒン。自らも閉じこもり、小さな世界、小さな盤上で海の底よりも深く...宇宙よりも遥か遠く、どこまでも静謐な世界を旅する伝説のプレーヤーの物語なのです。
チェスの優美で静謐な世界と駒が奏でる音と小川洋子さんの美しい言葉に、、いつまでも心震え、感動が止まらない。