みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『線は、僕を描く』 砥上 裕將

 

線は、僕を描く

線は、僕を描く

 

おすすめ ★ 

【内容紹介】 

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。
水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。
描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで次第に恢復していく。

 

【感想】

青山くんが水墨画という未知の世界に魅了され、精進し、巨匠や門下生たちの温かさや厳しさに触れ、時には大学の友達と心和む微笑ましい友情などを育む青春物語というとよくある話なのですが、、一本の線に苦悩し、情熱を注ぎ、真摯に取り組む姿から道を極める人々のひたむきさと努力に涙することが多かったです。

 

何といっても素晴らしかったのは水墨画を描く場面の圧倒的描写。これはものすごく感動。
墨の濃淡な線が形作られていき、命を吹き込み、生き生きと描き出されていく光景が目の前で広がるような、、一本一本丁寧な言葉の表現力に感情が揺り動かされました。

それぞれの水墨画から湖山先生のお言葉「心の内側を見なさい」が感じられる。それぞれの心の美しさが感じられ、水墨画から心の内が伝わってくる。
「墨の香りが立ち込める」というレビューを目にしましたが、まさにその通りで線が引かれる音すら聞こえるのではないかという不思議な錯覚もあり、心打たれるばかりでした。

優れた審美眼を持つ繊細な主人公とその成長を温かく見守る巨匠たち、個性豊かな兄弟子、気が強くて美人の千瑛。奥深く美しい静謐な水墨画の世界でひたむきに「美」を追及し「命」を感じ取る彼らの姿を通して「美しさ」に触れた気がしました。