みみの無趣味な故に・・・

読書、時々映画、絵画鑑賞の感想を書いてます。

『月まで三キロ』 伊与原 新

 

月まで三キロ

月まで三キロ

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「月は一年に三・八センチずつ、地球から離れていってるんですよ」。死に場所を探してタクシーに乗った男を、運転手は山奥へと誘う。―月まで三キロ。「実はわたし、一三八億年前に生まれたんだ」。妻を亡くした男が営む食堂で毎夜定食を頼む女性が、小学生の娘に伝えたかったこと。―エイリアンの食堂。「僕ら火山学者は、できるだけ細かく、山を刻むんです」。姑の誕生日に家を出て、ひとりで山に登った主婦。出会った研究者に触発され、ある決意をする―。―山を刻む。折れそうな心に寄り添う六つの物語。

【感想】

喪失感や絶望感を気象学、地質学、考古学、物理学など科学で心の紐を解き、再生する6つの短編集。感動してます。とても印象に残る物語ばかり。

「月まで三キロ」全てを失った自殺志願者。死に場所を探し、出会ったタクシーの運転手から月に最も一番近い場所があると、連れて行かれる。
(太古から現在までの月の話に驚くばかり。運転手の打ち明け話が辛い。。)

 

「星六花」異性に恐怖を感じる女性。食事会で出会った気象オタクに惹かれ、気象に興味を持つフリをする。

(気象オタクの奥平さんの物腰の柔らかさと雪の結晶の話は一緒にいたら落ち着くだろうなぁ。。)

 

「アンモナイトの探し方」両親の離婚で心に傷を負い、不登校になってしまう小学生の男の子。河川で石を叩く元博物館館長と出会い、化石を探し始める。。(無愛想な戸川元館長の化石への探究心やお言葉はキンキンキンと心に響いた。。)

「天王寺ハイエイタス」代々次男が継ぐかまぼこ店の後継者(もちろん次男)。長男は突然変異ばかりで、兄弟卒の天才の兄は地球温暖化の研究員。プロのギタリストだったいい加減な叔父(長男)の意外な一面が。

(突然変異の長男が生まれる笹野家。天才の産み分け方を科学的証明してもらいたいなぁ。。)

 

「エイリアンの食堂」母親を亡くし不眠症を患う幼い女の子。父の食堂に来る奇妙な女性に興味を持つ。素粒子を研究する彼女から教わることは。。(素粒子と宇宙。。世界で一番小さなものは世界で一番大きなもの。。この話が一番好きだわぁ。。)

 

「山を刻む」山岳写真家の夢を諦め、30年間家族のために生きた専業主婦。家族に黙って山に登る。そこで火山学を研究する先生と学生と出会い。。(胸の奥に秘めた思いが熱ければ熱いほど、情熱が噴火のごとく湧き上がるのね。共感度が一番でグッときた。。)

 

失意の底から抜け出せない人々が科学の知識により世界が広がり、光が射し込む瞬間、一気に自分も救われた気分になる。。偶然出会う人々にも再生ドラマがあり、寄り添い方の仄かな温かみがとても良かった。。何より短い物語の中に人間ドラマと理系の興味深い話がギュッと詰まってて、面白かった!手元に置いておきたい一冊!