みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『教誨師』堀川恵子

 

教誨師 (講談社文庫)

教誨師 (講談社文庫)

 

おすすめ ★★★★★

【感想】

教誨師。死刑囚と唯一自由に面会することを許される民間人。死刑囚と対話を重ね、死刑執行の現場にも立ち会う。任務の過酷さ。心がもたなくなる者が多い。その務めを50年も続けてきた僧侶・渡邉普相。初めて語られた死刑の現場とは。死刑制度が持つ苦しみと矛盾を一身に背負い生きた人生。ノンフィクション。


14歳の時に広島の原爆を体験した渡邉普相。ほんの僅かな運で生き残った普相は、苦しむ人々を見捨ててしまった事への罪悪を背負う。。命に向き合う人生の出発点。。僧侶となり、教誨師の先駆者・篠田龍雄と出会い、過酷な教誨師の道へすすむ。

篠田龍雄の教えが、渡邉普相に多大な影響を与えるも、死刑囚の心の開かせ方や対話の難しさに苦悩する。。死刑囚の苦しみ、「死」への恐怖。「生」の限りがあるからこそ底知れぬ恐怖に震える。何度も考え、残された時間を語り合うことに意味があると信じる渡邉の本当の苦しみがやってくる。。死刑執行の日。

死刑の恐怖は死刑囚だけではなく、刑務官、検事官、、教誨師にもある。小さなミスも許されない。。事務的に行う死刑執行だが死刑囚それぞれの最期にドラマがある。。泣き叫ぶ人、静かに受け止める人、恨み続ける人、生に執着する人。。初の女死刑囚が最期の間際に「すみません、もう二、三日、待ってもらえないもんでしょうか?」と言って周りを驚かせた場面。。「生」を願う人間の本能。生々しい人間らしさが伺える。。死刑囚の言葉を聞き、生い立ちから生き様、人間性を知り、真摯に向き合った人の最期を見届ける。。深く知れば知るほど最期の瞬間は心苦しいだろう。。執行時に側で泣きながら読経をする渡邉普相の姿に...深い悲しみが押し寄せてくる。。

後に、数えきれない程の死刑囚と接してきた渡邉普相の心の負担がお酒に走り、体を蝕んでいく。。(ここはちょっと気持ちがわかる。逃避したくなる)。。僧侶である渡邉普相も人間であり、必死に「生」に執着した人だからこそ、死に向かう人間の心情に思いやり、死刑囚から苦しめられながらも根気よく向き合い、深い悲しみをひとりで受け止め、心の弱さを自らの身体で学び、教誨師の本来の務めに気づく。自分が死んでから「告白」を世に出してほしい。。日の当たらぬ場所に少しでも光をあてたい一心なんだろうなぁ。。とても厳粛に真摯に教誨師の仕事を全うした僧侶のお話でした。。

 

死刑執行の実務に関わるすべての人々の苦しみを思うと死刑制度の問題について、とても責任を感じ、とても考えさせられる。。犯罪は被害者家族も加害者家族も幸せになることはない。。罰とは何か?。。答えは出ない。。それでも学ぶものが多かった。。人間が「生きていくこと」「生かされていること」...「死ぬこと」をたくさん学んだ。。ほんの一滴にも満たないだろうが現場の人たちの苦しみを感じ心痛めた。。何度も衝撃の波は押し寄せてきて苦しかった。。でもこの本はぜひ読んでほしい。