みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『父の詫び状』 向田 邦子

 

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

宴会帰りの父の赤い顔、母に威張り散らす父の高声、朝の食卓で父が広げた新聞…だれの胸の中にもある父のいる懐かしい家庭の息遣いをユーモアを交じえて見事に描き出し、“真打ち”と絶賛されたエッセイの最高傑作。また、生活人の昭和史としても評価が高い。航空機事故で急逝した著者の第一エッセイ集。

 

【感想】

厳格で時には(ほぼ?)理不尽な言い分で道理を通す向田さんの父・敏雄さん。。その父を立てる母・せいさん。
エピソードに驚かされながら、とてもユーモアに描かれ、フッと笑いが込みあげる。時折見せる父の愛情に苦笑い。。父ってこうだよね。。と共感。。
第一話の表題作では、父の客がお酒を飲みすぎて玄関先で粗相をした吐○物を凍てつく雪の朝に片付けている母の姿を見て、労いの言葉をかけることのない父に怒りを覚える。。しばらくすると、父から家族に手紙が。。終わりの方に「此の度は格別の御働き」という一行が朱筆で傍線が引かれてある。。父の詫び状。。一気に気持ちが持ってかれました。。

「お辞儀」がとてもじんわりさせられたお話。
留守番電話には色々な人がメッセージを残していく。。黒柳徹子さんのメッセージが一番面白い。1分では収まらない徹子さん。連続9回残して、最後に「用件は直に」と笑。。父からの立った1回のメッセージは噛み付くような怒鳴り声。。これもなかなか。。笑
旅行に行かない母に妹をつけて香港旅行に行かせた際、空港内でのドタバタから何とか搭乗口まで見送る向田さんに母が振り返り、深々とお辞儀をする。。「どうか落ちないでください。どうしても落ちるのなら帰りにしてください」と祈り、笑いながら涙が止まらなかったそうです。
母の入院。姉妹でお見舞いに行き、帰りのエレベーター前で深々とお辞儀をする母。見送られる姉妹たちはエレベーターの中で心痛む。。涙ぐむお互いの顔を見て見ぬふり。。
二回の母親のお辞儀を見て、自分が育て上げたものへ頭を下げるという行為が子供としての切なさを感じるお話でした。。
東京で働く向田さんの日常から、父と母との思い出が描かれるエッセイ。。今回も背筋が伸びるような気持ちにさせられ、とても良かったです。