みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『7月24日通り』 吉田 修一

 

7月24日通り (新潮文庫)

7月24日通り (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

地味で目立たぬOL本田小百合は、港が見える自分の町をリスボンに見立てるのがひそかな愉しみ。異国気分で「7月24日通り」をバス通勤し、退屈な毎日をやり過ごしている。そんな折聞いた同窓会の知らせ、高校時代一番人気だった聡史も東京から帰ってくるらしい。昔の片思いの相手に会いに、さしたる期待もなく出かけた小百合に聡史は…。もう一度恋する勇気がわく傑作恋愛長編。

 

【感想】

タイトルから異国を感じられる素敵な恋愛小説と思っていたら、女心の重みと暗闇に薄暗い気分が広がり、想像とかけ離れていくも最後までサクサクっと読めました。。ラストが前向きになるか後ろ向きになるかは読み手の性格にもよるかもしれない。。読後、目次ページに戻り、各章のタイトルを再度読む。面白い仕掛けになってる。

1.モテる男が好き!

2.イヤな女にはなりたくない

3.どちらかといえば聞き役

4.家族関係は良好

5.初体験は十九歳

6.タイミングが悪い

7.ときどき少女漫画を読む

8.夜のバスが好き

9.アウトドアは苦手

10.間違えたくない(←結末を知ると余韻が高まります)

 

4つ年下のイケメン弟・耕司と比べられ、「地味な姉」と囁かれてきた小百合は自信喪失女子。。住んでる街をリスボンに見立て、お洒落な町に住む自分を想像しながら通勤バスで街並みを愉しむ夢見がちな妄想女子でもある。。妄想はとても素敵。。心の拠り所は「イケメン耕司の姉」という立ち位置の優越感。。耕司の恋人・めぐみが自分と同様の地味な女性だった事に動揺し、怒り狂う。「あなたが恋人だって認めないから」。。ひどい言い草だわ。。同窓会で高校時代に片思いだった人気者・聡史と再会し、恋人関係に。。同時に図書館で出会った平凡な青年と『ポルトガルの海』という本をキッカケに距離を縮めていき、聡史にはない居心地の良さを知る。。高望みの恋と身分相応の恋。。どちらを選択するのか。。?

 

青年と小百合が『ポルトガルの海』の詩の中で好きな言葉は?と会話をするシーン。

青年「僕のまとった仮装の衣装は間違っていた」

小百合「わたしたちはどんなことでも想像できる、なにも知らないことについては」

 

それぞれの言葉がギュッと濃縮された本でした。

 

『号泣する準備はできていた』 江國 香織

 

号泣する準備はできていた (新潮文庫)

号泣する準備はできていた (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから――。濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など全12篇。号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる……。そう囁いてくれる直木賞受賞短篇集。

【感想】

過去の恋に対する、複雑な思いを抱えている女性を描いた短編集。

離婚寸前の妻、同性愛のカップル、主婦、不倫女性、過去の男を忘れられない女性。。自分の置かれた環境、孤独の中で本能と流れのまま生き、不安を持ちつつ安定な日常に身を置く女性たち。。悲しみが不意にやって来ても乗り越えられる。。大丈夫と思わせてくれる。。

 

「自分以外の人間の心の中は深い闇だとちゃんと知ってた」

 

江國さんの恋の距離感や男女の描写がとても綺麗で溌剌としてて、心地よい。。ゆっくり、一話一話を摘んで読むのがおすすめです^_^

『ママがやった』井上荒野

 

ママがやった (文春文庫)

ママがやった (文春文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「まさか本当に死ぬとは思わなかったの。びっくりしたわ」79歳の母が72歳の父を殺した、との連絡に姉弟3人が駆け付けた。母手製の筍ご飯を食べながら、身勝手で女性が絶えなかった父の、死体処理の相談を始める―男女とは、家族とは何か。ある家族の半世紀を視点人物を替えて描いた、愛を巡る8つの物語。

 

【感想】
79歳のママが72歳のパパを殺したから物語が始まり、長女の恋愛、パパの目移り、次女の娘の結婚、ママとパパの出会い、長男の淡い恋、愛人の恐怖のドライブ(これ、怖い)などそれぞれの視点で家族の風景が語られる連作短編集〈時系列順不同〉

定職に就かず女性に趣味に目移りばかりのだらしなくどうしようもないパパ(めちゃモテ男)の言動や存在にどこか救われている家族たち。。パパをとっても愛するママを愛してる子供たち。。ママの居酒屋のカウンターで愛人と飲んでるパパという泥沼化しそうな危うい状況でも家族にとっては日常風景。危険因子が母子の団結力を固くしているようだ。。とてもおかしな家族ではあるが、、なんとなく、、わかる笑。。40過ぎであろう子供たち(特に息子)が「ママ」「パパ」と親を呼ぶのも、、未熟性を表現してるのかなぁ(我が家のようで、苦笑い)。。殺したくなるほどの夫への愛。。パパが殺されても日常の一部のような家族。。なんだかとっても不思議で、とっても怖いお話でした。

『ロートレック荘事件』 筒井 康隆

 

ロートレック荘事件(新潮文庫)

ロートレック荘事件(新潮文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが…。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か?アリバイを持たぬ者は?動機は?推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。

 

【感想】

こういうの好きです。郊外に佇む美しい洋館。。優雅な時間を過ごす将来有望な青年達と美しいお嬢様達。魅惑的な美しい女性、おっとり淑やかなふんわり女性、空気を読まないわがまま女性。。癖のある親たち。殺人事件は起きます。犯人はこの中にいるでしょう。。鋭い目を持つ迫力のあるドタバタ刑事登場。。警察が捜査中に次々と殺人事件が起きる笑。。読んでいくうちに不思議な違和感。。モヤモヤから解明されるトリック。。合ってるかなぁ。。解決編へ。。ネタバレあり...かも。

序盤からちょっと違和感があったのは、誰視点なの?で戸惑ったから。。「おれ」は誰?と疑問に思いながら読んでるうちに、ある人物の存在感を掴むとグンと読みやすくなったの。。ロートレックの人物像にヒントあり?

こういうミステリー久しぶりでした。。ロートレックの絵画も鑑賞できて楽しかった😊

『線は、僕を描く』 砥上 裕將

 

線は、僕を描く

線は、僕を描く

 

おすすめ ★ 

【内容紹介】 

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。
水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。
描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで次第に恢復していく。

 

【感想】

青山くんが水墨画という未知の世界に魅了され、精進し、巨匠や門下生たちの温かさや厳しさに触れ、時には大学の友達と心和む微笑ましい友情などを育む青春物語というとよくある話なのですが、、一本の線に苦悩し、情熱を注ぎ、真摯に取り組む姿から道を極める人々のひたむきさと努力に涙することが多かったです。

 

何といっても素晴らしかったのは水墨画を描く場面の圧倒的描写。これはものすごく感動。
墨の濃淡な線が形作られていき、命を吹き込み、生き生きと描き出されていく光景が目の前で広がるような、、一本一本丁寧な言葉の表現力に感情が揺り動かされました。

それぞれの水墨画から湖山先生のお言葉「心の内側を見なさい」が感じられる。それぞれの心の美しさが感じられ、水墨画から心の内が伝わってくる。
「墨の香りが立ち込める」というレビューを目にしましたが、まさにその通りで線が引かれる音すら聞こえるのではないかという不思議な錯覚もあり、心打たれるばかりでした。

優れた審美眼を持つ繊細な主人公とその成長を温かく見守る巨匠たち、個性豊かな兄弟子、気が強くて美人の千瑛。奥深く美しい静謐な水墨画の世界でひたむきに「美」を追及し「命」を感じ取る彼らの姿を通して「美しさ」に触れた気がしました。

 

『楽園』鑑賞

映画『楽園』公式サイト

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おすすめ ★★★☆☆

 

【感想】

『悪人』、『怒り』を一緒に鑑賞したお友達から『楽園』を観に行こうと誘われ、急いで読んだ吉田修一さんの『犯罪小説集』(感想はコチラ→)『犯罪小説集』 吉田 修一 - みみの無趣味な故に・・・


5つの短編のうち、「青田Y字路」と「万屋善次郎」が映画化されたそうです。。善次郎が楽しみ(*˘︶˘*).。.:*♬

 

12年前に起きた少女失踪事件の被害者の友達・紡役の杉咲花。生き残った方の少女として罪悪感を抱えながら生きる女性。。
母と2人で日本で生きる中国人・豪士役・綾野剛。少女失踪事件の犯人の疑惑を持たれ、追い詰められていく。。
集落で愛犬と暮らす養蜂家・善次郎役の佐藤浩市。養蜂で村おこし事業を巡り、村八分にされてしまい、こちらも追い込まれてく。。

閉鎖的な村で行き場を失い、孤独に生き、絶望をし、一線を超えてしまう人間。。少女失踪事件の被害者の祖父・柄本明が村人たちと豪士を犯人狩りをし、追い込む時の心理がただただ悲しい。。救われたい、納得したい。。背負う物が大き過ぎてやるせない。。
村八分をされる善次郎。。誰も信じることができず、愛犬と亡き妻との思い出だけを胸に生きる悲しき養蜂家。。原作でも泣いてしまった愛犬の健気さ。。映画でもウルウルでした(´இωஇ`)周りからも泣く音が聞こえ、絶妙な効果音。。ただ...豪士よりも善次郎の追い込まれ、精神崩壊していく心理状態があっさりしてて、とっても残念。。善次郎のちょっとした恋模様(村の未亡人との混浴シーンって必要?)はいらないかなぁ。。自死のシーンがあるんだけど、、怖くて長くて、、悲鳴をあげそうになった。。友達が隣で((((;゚;Д;゚;))))ヒィ--ヤメテ--と悶絶状態のわたしの事を笑っていたようだ。。いやほんと、痛いよ。。鎌で腹切り。。長いよこのシーン。。きゃ━(;´༎ຶД༎ຶ`)━っっ!!!


という事で、、『悪人』や『怒り』に比べると(監督さんが違いますよ)あまり入り込めなかった感はありました。。終盤はやや退屈にもなってしまった。。役者陣(主役も脇役も)の緊迫感は凄かった。。特に原作では重要人物ではなかった紡を演じた杉咲花ちゃんの罪悪感や憤りは良かったです。。吉田修一作品シリーズ、、終始陰湿。。ここは病みつきになるところです笑。。

『犯罪小説集』 吉田 修一

 

犯罪小説集 (角川文庫)

犯罪小説集 (角川文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

田園に続く一本道が分かれるY字路で、1人の少女が消息を絶った。犯人は不明のまま10年の時が過ぎ、少女の祖父の五郎や直前まで一緒にいた紡は罪悪感を抱えたままだった。だが、当初から疑われていた無職の男・豪士の存在が関係者たちを徐々に狂わせていく…。(「青田Y字路」)痴情、ギャンブル、過疎の閉鎖空間、豪奢な生活…幸せな生活を願う人々が陥穽にはまった瞬間の叫びとは?人間の真実を炙り出す小説集。

【感想】

映画『楽園』の原作がこの本と最近知り、映画鑑賞の前に読みました。
実在した犯罪を題材にした短編集。なぜ人は罪を犯してしまうのか?そんな動機で?と悲しい事件のニュースを見るたびに憤りを感じることが多々あります。ただこの本を読んで犯罪を犯す人と犯さない人の心の境界線が実はそこまでかけ離れているわけではない事に驚愕しました。環境、欲望、不安、お金、人間関係、心の防衛、見栄、挫折、虚栄心...あらゆる感情に追い込まれた一歩で道を踏み外すか外さないか。。恐ろしさを感じました。善人と悪人の境界線も曖昧で、人が人を追い込む悪意。その事に気づけない善人たち。。ゾッとします。

 

「青田Y字路」連続少女失踪事件の容疑者と疑惑を持たれる青年の悲しい末路。

(こちらが映画化されたそうです。楽しみ)

 

「曼珠姫午睡」保険金をかけて男性を殺害したかつての同級生。彼女の人生を調べた主婦が追体験しながら色欲の世界に踏み込もうとする。

(普通の主婦が歩まなかった全く違う人生を交差させるって、発想凄い)

 

「百家楽餓鬼」運送会社の御曹司がマカオのカジノにハマり、会社のお金に手を出し破産寸前まで堕ちていく。

(負け知らずの人生の破滅。。バラ色の中の闇って見落としやすそう)

 

「万屋善次郎」集落に住む親の介護で故郷に戻る善次郎。村おこしに力を注ぐも村人から村八分状態に。精神を追い込まれた善次郎は村人を次々と。

(善次郎の飼い犬だけが善次郎の人間性を見抜き、信じ、健気に守る姿に泣きました。)

 

「白球白蛇伝」悪環境な地域で育った人気高校球児。プロ入りし、成績上々、美人記者との結婚と栄光人生に陰りが。引退後の借金を重ね、金の工面で友達を。

(ステータスを下げることって難しいのね。子供がリトルリーグで最後の試合で悔し涙をする場面にどうか未来に光がありますようにと願わざるおえない)

 

過去の実在した事件(予想)を頭に思い浮かべながら読みました。小説だけど実在してると思うと、生々しさを感じられます。